国民の生死がかかった中間選挙 アメリカ国民の過半数が「インフレから恐慌に突入する」と予測

2022.10.23

バイデン政権下のインフレ上昇率(FOXニュースより)。

《本記事のポイント》

  • 1930年代のような"大恐慌"が5年以内に来ると予測
  • 米経済界が予測する不況
  • スタグフレーション・スパイラルの10のステップ

アメリカはインフレから恐慌に突入するのではないか。こうしたアメリカ国民の懸念を示した一つの世論調査がある。

世論調査会社のラスムッセンが9月下旬に調査を行った結果、アメリカ人の57%は「1930年代のような"大恐慌"が5年以内に来ると考えている」ことが判明したのだ。

米経済界が予測する不況

米経済界からも、この国民の不安を裏付ける発言が立て続けに出ている。

「アメリカや世界は今から6~9カ月後に景気後退に追い込まれる可能性がある」(JPモルガン・チェースの最高経営者(CEO)のジェイミー・ダイモン氏)

「パーフェクト・ストーム(最悪の嵐)がやってくる」(ヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオ氏)

「アメリカは不況に突入している可能性がある」(ゴールドマンサックスの最高経営責任者のデービッド・ソロモン氏)

また、トランプ政権の経済顧問のピーター・ナヴァロ氏もこう指摘する。

「我々はもう(インフレと景気後退が同時並行で進む)スタグフレーションに突入している。これは1970年代と同様にもっとひどくなると予測する」

1973~1975年に、インフレ率が14%だったころに、失業率は9%にまで上昇。米連邦準備理事会(FRB)が金利を1981年に20%に引き上げ、インフレは収束に向かうも、1980年から1982年は連続で不況に陥った。

スタグフレーション・スパイラルの10のステップ

では、現在のアメリカはどの段階にあるのか?

トランプ政権の経済顧問だったケビン・ハセット氏は、ナショナル・レビュー紙に「スタグフレーションの10のステップ(The Ten Steps of Stagflation)」と題するコラムを寄稿した。

この中で、アメリカは今スタグフレーション・スパイラルの只中にあり、予測可能な歴史的パターンに従っているとして、このスパイラルが終わるまでに10のステップを辿ることになると指摘する。以下、ハセット氏の段階論を解説する形で説明したい。

ステップ1 「インフレショック」

ハセット氏は「バイデン政権が過剰な政府支出で景気を刺激し、規制緩和や供給を止める政策に打って出たことで、インフレ率は上昇した」とする。

バイデン政権は、これまで約4兆ドルもの政府支出を決めた(しかも政府支出の削減計画はない)。この膨大な政府支出により、国民が使えるお金を増やし、需要を喚起したことがインフレの原因となった。この点は、日本ではあまり紹介されていないが、アメリカでは左派と右派の両極が認めざるを得ないところまできている。

驚くべきは、バイデン大統領が「米経済はものすごく強い」と発言していることだ。物価高に喘ぐ国民の生活実感を無視し、中間選挙において経済を争点にするのを何としても避けたいようだ。

ステップ2 「実質賃金の低下」

「物価が上昇すると、賃金上昇率が物価に追いつかず労働者の実質賃金は低下する」(ハセット氏)

本欄でも述べてきたように、アメリカ人の平均的な家庭は4200ドル(約62万円)もの所得を失っている(関連記事参照)。

好景気による供給増や需要増に後押しされたマイルドなインフレ時は、賃金上昇率がインフレ率よりも高くなり、生活水準は実質的に上昇する。一方、「生産コスト」が高くなることによるインフレ時は、「賃金上昇率」は 「インフレ率」に追いつかず、生活水準は悪化する。

トランプ前大統領が過日、ネバダ州の政治集会で「ネバダ州の一般的な世帯の支出は月845ドル(約12万5千円)増えた。全米で多くの貧困世帯の貯蓄が消えた」と訴えたように、一般的な国民がどんどん貧しくなっているのだ。

ステップ3 「消費の減退」

「実質賃金が下がると、生活水準を維持するための資金を持てなくなる」(ハセット氏)

生活水準が下がれば、消費能力も下がっていく。現在アメリカでは、1年前と同じ生活水準を維持するには、毎月460ドル(6万8千円) 余分に支払わなければならない。ガソリン価格も上昇し、卵やミルクなどの生活必需品が1パック当たり日本円で1000円近くになっていることは、家計を圧迫しているというだけでなく、低所得者層には死活問題である。

ステップ4「実質GDPの減少」

「消費がGDPの大部分を占めるので、消費の鈍化はGDPの減少につながる」(ハセット氏)

昨年来のインフレで、アメリカの実質国内総生産(GDP)の第1四半期は年率換算で前期比1.6%減、第2四半期は0.6%減と、2期連続でマイナス成長に転じた。

ステップ5「生産性の低下」

「消費が減少し、同じ数の労働者が少ない総生産に従事すると、生産性は急降下する」(ハセット氏)

財とサービスの需要が減っている中で、企業が生産活動を続けた場合、需要減に合わせて、生産を下げることになる。しかし、この段階で企業は労働者を解雇してはいないため、労働者一人当たりの生産性が急降下することになる。

ステップ6「米連邦準備制度理事会(FRB)が動く」

2021年3月の1.9兆ドル(279兆円)もの新型コロナ対策法が成立したが、夏以降インフレ率は顕著に高進していった。

FRBは、2021年の段階で、インフレは「一過性のものだ」と主張し続け、判断を先延ばしにした。結果、今年2月のウクライナ紛争が始まる前の時点で、インフレ率は7.9%に達していたが、判断ミスを認めず、2022年3月においても0.25%しか利上げしていない。

もとより2008年の8300億ドルから9兆ドルもマネタリーベースが膨張している中でのインフレ抑制は決して簡単ではない。ラッファー博士が本誌8月号のインタビューで答えている通りである(関連記事参照)。

ステップ7「経済の急降下」

「住宅販売や企業の固定投資など、金利に敏感な指標は下降し始める」(ハセット氏)

30年固定の住宅ローンの金利は6.6%と利上げ前の2倍近くに上昇した。FRBが3月に利上げを開始して以来、不動産や住宅ローン、建設業者の売り上げは最大8割落ち込んだ。不動産業者150人のうち2割が24カ月以内に廃業するという予測もある。現在はこの段階にあると言える。

ステップ8「物価上昇率が賃金上昇率の水準まで低下する」

インフレは賃金上昇が止まらなくなった時に起きる。この段階では、企業は賃上げをせざるを得ない状態だが、需要の減少により価格上昇圧力が下がるので、インフレ率は6%まで下がることになる。

ステップ9「失業率の急上昇と賃金上昇圧力の緩和」

「FRBが金利をインフレ率より上回るレベルまで上げたら、企業は従業員を解雇する。この段階は、3カ月から6カ月ほど先にやってくる」(ハセット氏)

FRBがインフレ率を上回るレベルまで金利を引き上げると、高い金利のお陰で、企業は新規の投資を手控える。つまり新しい従業員の雇用や、新しい工場の建設といった投資が減り、雇用も減少する。

また、借金の利払いが収益を圧迫するので、倒産を避けるには従業員を解雇しなければならなくなる。ハセット氏は、大量の失業者を伴う不況は、年末から来年の3月にかけて起き得るという。

ステップ10「不況の終結」

「この不況が終結した時に、インフレはコントロール下に置かれることになる」(ハセット氏)

ハセット氏はこう述べるとともに、この最後の段階は「あまりに先のこと」としている。

石油の増産や働く人を増やすといった供給サイドに配慮した政策が行われなければ、ラリー・サマーズ元財務長官が指摘していたように、5%から10%の失業率が5年は続くということになる。つまり数百万人の失業者が生まれるということだ。

バイデン氏は中間選挙後、増税を予定しているため、選挙結果次第では、不況が深刻化し、大恐慌にもなりかねない。2週間後に控えた中間選挙は、文字通り、国民の「生死」がかかったものとなりそうだ。

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『減量の経済学』

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『「大きな政府」は国を滅ぼす』

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2022年8月号 バイデン大統領は大恐慌を招くのか

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2022年10月9日付本欄 バイデン政権下で約1カ月分もの所得を失ったアメリカ人 なぜお金を刷っても富にならないのか

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タグ: 増税  アメリカ  中間選挙  失業率  恐慌  バイデン政権  不況  インフレ 

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