米ワシントンに見る宗教における保守派とリベラル派の戦い【─The Liberty─ワシントン・レポート】

2022.07.06

米連邦最高裁判所が6月24日、「人工妊娠中絶は憲法で認められた女性の権利」だとした判決(1973年の「ロー対ウェイド」判決)を覆したことは、全米に計り知れない衝撃を与えた。これに続いて大きな話題になったのが、7月2日付の本欄で紹介した最高裁判決だ(詳細は関連記事参照)。

ワシントン州の公立高校のフットボール部で非常勤アシスタントコーチを務めていたキリスト教徒のジョセフ・ケネディ氏は、試合後にグラウンドで静かに神に祈る習慣があった。生徒たちもそれに加わるようになると、高校側から"祈りの禁止令"が出され、ケネディ氏はそれに従わずに試合後の祈りを続けたため、2015年に停職処分に。それを不服として、裁判に訴えた。

ケネディ氏側は、憲法修正第1条で規定されている権利(信教、言論、出版・集会の自由)を行使しているだけだと主張。一方の学区側は、ケネディ氏の行為は強制的だったと指摘。選手の両親たちは「子供たちは参加を強制されたように感じていた」と司法長官に訴えた。

そして6月26日、連邦最高裁は「学校側が、コーチがグラウンドで生徒に囲まれながら祈ることを禁止しようとしたことは、信教の自由と言論の自由の侵害にあたる」という判決を下し、ケネディ氏は勝利した。

「コーチの祈りの勝利」を受け、ポンペオ氏が「信教の自由」広告

このニュースは、「信教の自由の勝利」として、非常に大きな話題になった。マイク・ポンペオ元国務長官は、最高裁が「コーチの祈りの勝利」の判決を出した"わずか数分後"に、「信教の自由」の大切さを訴える広告を発表した(下画像)。それが政治ストラテジストなどの間で、話題を呼んでいる。

ポンペオ氏のツイッターより

広告の冒頭で、ナレーターはこの事件を紹介し、「この10年以上の中で、『最も重要な』学校での祈りの事件の一つ」と述べている。そしてポンペオ氏は、この広告の中で、「言葉だけではありません。行動だけではありません。それらは私たちをつくるものです。信教の自由と祈る権利が決して取り消されないようにしましょう」と語り、「信教の自由」の大切さを訴えかけている。

ポンペオ氏は、2024年大統領選の準備を進めているとも噂されており、トランプ前大統領が出馬しない場合の有力な大統領候補の一人とみなされている。この広告キャンペーンに詳しい人物によると、同広告はアイオワ州とサウスカロライナ州でデジタル配信されている。2州は、2024年初頭に予備選や党員集会が行われ、大統領選の党内指名を獲得するための鍵となると見られている(6月27日付ザ・ヒル)。

アメリカの保守層がどれほど「信教の自由」を大切にしているかが分かり、日本では見られないエピソードだろう。今回のような最高裁の判決が出たのも、トランプ大統領(当時)が連邦最高裁判事に保守派を3人指名し、最高裁判事の構成(定数9人)が6対3で保守に傾いたため。トランプ氏の功績は大きいと言える。

プライド月間に「虹色の旗」

一方で、リベラル派の動きも加速している。

6月は「プライド月間(Pride Month)」とされ、アメリカではLGBTQIA(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、性的マイノリティ(Queer)、中間的な性(intersex)、無性愛(asexual))の権利について啓発を促すイベントなどが開催されている。

1999年、ビル・クリントン大統領(当時)が最初に「ゲイおよびレズビアンプライド月間」と宣言。バラク・オバマ大統領(当時)はより包括的に「LGBTプライド月間」と宣言し、バイデン大統領は昨年、「LGBTQ+プライド月間」と宣言した。

共和党支持者が6%しかいないワシントンD.C.では、リベラル派が圧倒的多数を占め、多くのレストランや、教会までも、虹色の旗やバナーを掲げている。

また、ニューヨークのマンハッタン中央部にある「ロックフェラー・センター」でも、掲げる旗が全て国旗から虹色の旗に変わっており、五番街側に出る道も虹色に塗られていた。一方、同じ五番街にある「トランプ・タワー」は、もちろん、虹色の旗ではなく大きな米国旗を掲げていた。

ワシントンD.C.では多くの教会が虹色の旗やバナーを掲げ、LGBTQを差別していないことを主張している。

ワシントンD.C.のお店やレストランにも虹色のバナーや旗が掲げられていた。

6月11日にワシントンD.C.で行われたデモ行進。6月にはアメリカ全土でLGBTQの権利を訴えるデモ行進などが行われている。画像:Stephanie Kenner / Shutterstock.com

6月12日にワシントンD.C.で行われた「キャピタルプライドフェスティバル2022」の入口。DCStockPhotography / Shutterstock.com

6月24日、最高裁判所が「ロー対ウェイド」判決を覆した後、最高裁判所の建物外でデモ参加者が抗議した。画像:Tada Images / Shutterstock.com

(ワシントン在住 N・S)

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【関連記事】

2022年7月2日付本欄 米最高裁が「宗教的自由」守る判決を下す 試合後に生徒と祈り捧げ解雇されたアメフトコーチが勝訴

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2022年5月30日付本欄 最先端の半導体不足に苦心するアメリカ 【─The Liberty─ワシントン・レポート】

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2022年6月22日付本欄 米で「中絶擁護派」が妊娠相談センターなどに火炎瓶投下 民主党による事実上の暴力容認に批判集まる

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2022年6月23日付本欄 国際水泳連盟がトランスジェンダー選手の出場規制に関する新方針を発表 世界陸連やFIFAが追随を示唆も、かえってLGBTQを一般化してしまう?

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タグ: 信教の自由  人工妊娠中絶  宗教  ワシントン・レポート  保守  リベラル  祈り  LGBTQIA 

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