H&Mがウイグル問題でサプライチェーン見直し 知らずに強制労働に関与する問題も
2020.09.18
新疆ウイグル自治区のヤルカンド県にある、「強制収容所」とみられる施設。
《本記事のポイント》
- スウェーデンのH&Mが、強制労働に関与した中国メーカーとの取引を停止
- ウイグルの人権団体によれば、自治区には収容所などが500カ所近くあるという
- サプライチェーンと労働力の関係性が複雑化し、実態を分からなくさせるのが中国の狙い
スウェーデンのアパレル大手「H&M」は、中国西部にある新疆(しんきょう)ウイグル自治区での強制労働に関与した中国メーカーとの取引を停止し、同自治区からの綿花の調達をやめることを、このほど発表した声明で明らかにした。
この問題は、オーストラリアのシンクタンクが今年3月に公開した報告書で指摘したもので、国際的な批判が巻き起こり、H&Mは今回の決定に至った。
H&Mが声明を出す直前の14日に、トランプ米政権は、ウイグルで生産された一部の製品が、強制労働によって作られた疑いがあるとして、輸入禁止措置を発表していた。
ウイグルの強制労働問題は、国際労働法に反する明確な人権侵害だ。中国に進出する各企業は、国際法の順守というコンプライアンスの問題として、対応に乗り出す必要に迫られていた。
自治区には収容所などが500カ所近くあるという報告
ウイグル問題が再びクローズアップされる中、新疆ウイグル自治区に存在する強制収容所は一体、どれぐらいあるのか。
グーグルアースの画像を調査した人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は、収容施設や刑務所などが500カ所近くあるとし、そのうち「強制収容所」とみられる施設を182カ所特定している。その一部を紹介すると、次の通りだ。
ヤルカンド県
カルギリク県
マラルベシ県
クチャ市
ウルムチ市
チャルチャン県
ニヤ県
ケリヤ県
このような施設が自治区の各地に点在していることは、グーグルアース上で確認できる。
強制労働の実態調査が難しい理由
今回のような強制労働問題の解決を難しくさせているのは、企業側がそれに関与していないことを証明するのが、一筋縄ではいかない点だ。
ウイグル人には、収容所で「洗脳」され、そこから"卒業"できると、他省に移送され、労働を強いられる人が多数存在している。サプライチェーンに組み込まれた中国メーカーは、警察当局と連携した監視体制や劣悪な労働環境の下、まとまった数で働かせることができるとして"重宝"している。
ウイグルの強制労働者は中国全土に広がっているため、自治区という場所に限った話ではない。サプライチェーンと労働問題の関係性が複雑に絡み合っているため、強制労働の真相を究明することが難しい。まさに中国政府の狙いはそこにあり、ウイグル弾圧の実態がバレないよう改革を進めてきたと言える。
中国の人権弾圧に関与していないことを証明する試みは、今後も「いたちごっこ」が続くだろう。となれば、論理的な帰結先は、「中国からの撤退」が企業のリスク分散という意味で、最も望ましい選択肢と言わざるを得ない。
(山本慧)
【関連書籍】
『大川隆法 思想の源流』
幸福の科学出版 大川隆法著
【関連記事】
2020年8月29日付本欄 「中国共産党は人類の敵だ」──盲目の人権活動家・陳光誠氏が米共和党大会で演説
https://the-liberty.com/article/17540/
2020年10月号 『大川隆法 思想の源流』にある ハンナ・アレントの政治哲学 アレントが源流にある理由とは
「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
「ザ・リバティWeb」協賛金のご案内
YouTubeチャンネル「未来編集」最新動画