トランプ政権が中国共産党員の「米渡航禁止」を検討 "習近平包囲網"本格化か
2020.07.18
写真:StrippedPixel.com / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- 2.7億人が影響──トランプ政権最大級の"挑発"行為に!?
- 党エリートにはメガトン級の打撃になる
- "中国包囲網"ならぬ"中国共産党包囲網"、そして"習近平包囲網"
トランプ米政権が、全ての中国共産党員とその家族に対して、アメリカへの渡航禁止を検討している。米ニューヨークタイムズ紙などが報じた。
2.7億人が影響受ける!?
現在は大統領令の草案を練っている段階であり、渡米禁止の最終的な対象も、トランプ大統領が最終的に署名するかもまだ分からない。
だがもしこれが実施されれば、すでに米国内にいる党員と家族のビザが無効になり、"追放"される可能性がある。人民解放軍関係者や中国国営企業幹部も、党員である可能性が高いことから、対象となるとの観測もある。
中国共産党員は中国全人口の6.5%にあたる約9200万人。家族にも措置が及べば、最大で2億7000万人が影響を受けるという。
ニューヨークタイムズ紙は「このような広範な渡航禁止は、2018年に両国間の貿易戦争が始まって以来、アメリカによる中国に対する最も挑発的な行動であろう」としている。
党員と普通の中国人を線引き
米政府の狙いは何か。まずこの措置は、"中国包囲網"ならぬ、"中国共産党包囲網"を形成する効果がある。
ニューヨークタイムズ紙は措置の"肝"について、こう説明している。
「この数カ月、(米国)政権幹部は党員と他の中国人との線引きをしようとしてきた。党がその行為を罰せられるべきであり、その世界的野心を挫かねばならないというのだ」
多くの一般市民にとって、今回の措置は痛くもかゆくもない。むしろ「アメリカなど国際社会が非難しているのは、あくまでも為政者であって、自分たちは敵視されていない」と確認するかもしれない。「アメリカのお陰で、汚職官僚の逃げ道が断たれた」と感じる者も出てくるだろう。
中国の国民が北京政府に冷めた感情を持つようになれば、体制の不安定化につながりうる。
党内での習近平不信が強まる!?
この措置はさらに踏み込んで、"習近平包囲網"を形成する効果もある。
日本で普通の生活をしていれば、「渡米禁止」の重大さは分かりにくい。しかし、中国のエリート層からすれば、"メガトン級の爆弾"だ。
彼らの多くは、資産のみならず、家族もアメリカに逃がし、自身もアメリカの永住権や米国籍を取得している。実際、中国共産党中央委員会委員の90%近くが、直系親族を西側で生活させており、省部級高官子女の75%がアメリカの永住権・国籍を持っているという。本音では「そもそも、中国の政権の未来がどうなるか分からない」という不安を抱え、保険をかけている。
つまり「党員と家族のアメリカ追放」は、絶望的な措置なのだ。
怒りの矛先は、習近平政権に向かう。「あなた方の向こう見ずな強硬姿勢のせいで、大変な目に遭った」という具合だ。
中国政府も一枚岩ではない。習近平政権の「敵を増やす」ような国家運営に、内心首をかしげる"ハト派"も多い。例えば香港への強硬姿勢についても、最高指導部を引退した長老たちの間では慎重意見が多かった。「中国経済は、香港を締め上げたら崩れる。外交でももう少し国際協調しないと、破滅する。習近平の暴走を何とかしなければ」という見方だ。
そんな彼らが「渡米禁止」措置で直接損害を被れば、共産党内で習近平政権への不満や怒りはますます強まる。
同政権が文字通り「四面楚歌」状態になる日が、近づいているかもしれない。
(馬場光太郎)
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