「消費税上げは経済対策で相殺できる」というウソ
2018.12.26
《本記事のポイント》
- 増税の家計負担5.2兆円、経済対策5.5兆円で「プラス・マイナス・ゼロ」!?
- 経済対策は「貯蓄」に吸収され、経済へのダメージは大きい
- 前回の増税よりも大きいダメージが予想される
来年の消費増税に向けた、景気対策の全容がほぼ固まった。
増税で想定される「家計負担」は5.2兆円。これは、消費税率の引き上げ、たばこ増税、所得増税などを合わせたものから、軽減税率による負担軽減を差し引いたものだ。
それに対する対策の規模は、約5.5兆円。これは、「キャッシュレス決済のポイント還元」「プレミアム商品券」「『国土強靭化』と称した公共事業」「教育無償化」などをあわせた額である。
それぞれの額を比較して、メディアは「経済対策が増税の負担を上回る」と報じ、閣僚は「経済への影響を十二分に乗り越えられる」(茂木敏充経済再生担当相)と胸を張る。
確かに、政府が日本経済から"吸い上げる額"と、"吐き出す額"はほぼ同じ。「家計負担」という面だけを見れば、一見、「プラス・マイナス・ゼロ」かもしれない。
経済対策は「貯蓄」に吸収される
しかし、「経済へのダメージ」はゼロとは程遠い。
"吐き出した額"の大部分は家計の貯蓄に回されてしまう可能性が高い。日本人の多くは、ボーナスなどの臨時収入が入ってきたらすべてを使うだろうか。ほんの少しだけ買い物をした後、将来への不安から、残りは銀行口座に残しておくのではないだろうか。
「所得における貯蓄の割合」を「貯蓄性向」と呼ぶが、この値が大きいほど、政府の景気対策の効果は吸収されてしまう。
ましてや今は、前回の増税時と違い、「金融緩和の効果が出ないのではないか」「五輪が終わった後の景気の落ち込みはどうなるのか」「米中貿易戦争の影響はどうなるのか」といった経済への不安要素は明らかに多い。
そんな中で「ポイント還元」「プレミアム商品券」「教育無償化」による"お小遣い"が増えたとしても、買い物にまわされるのは一部にすぎないだろう。
短期的な「家計負担」と、中長期的な経済へのダメージとは、別の話であることを注意しなければならない。
消費税の本当の怖さは、「消費者の負担が増えること」ではなく、「企業の売り上げが減ること」にある。企業は売り上げ減を受けて賃金を下げる。あるいは、物価の上昇に見合った賃上げができない。つまりは、実質賃金は下がる。
すると人々は、「給料が伸びない」と思い、ますます財布の紐を締める。つまり消費税引き上げは、この負のスパイラルの最初の一押しをしてしまう。
前回の増税よりも大きいダメージ
さらに今回の増税が行われれば、税率は10%になる。つまりは価格の1割だ。8%のときはすぐに計算できなかった1980円に対する税率も、1割となれば「198円」と瞬時にはじき出せる。すると心理的な歯止めがかかり、商品を棚に戻してしまう。この心理的効果を「税の顕著性」という。
こうした心理と将来への不安があいまって、消費者は、前回の増税の時以上に買い物を控えるようになるだろう。
「次回の消費税の影響は小さい」というウソに、騙されてはならない。
(馬場光太郎)
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