1年半でサブスリーを達成した40代中年男のマラソン奮闘記(4) 持久力とスピードをつける練習法
2017.12.10
しばらく運動から遠ざかっていた40代中年男が、1年半のトレーニングでサブスリーを達成するまでのストーリー(全5回)。4回目はスピードと持久力をつける練習法を紹介する。
2017年4月下旬、10月末に行われる「第2回水戸黄門漫遊マラソン」にエントリーした。いよいよフルマラソンだ。同日の「横浜マラソン」と迷ったが、横浜は参加費が高額な上に抽選があるため、前者に決めた。参加できるかどうかは、その時の仕事の状況によって何とも言えないが、申し込まないといつまで経っても前に進まない。ついに意を決して申し込んだ。決戦は半年後である。
エントリーしてからというもの、42.195キロの「重み」がのしかかり、5月以降、月間走行距離が伸びることになった。(5月181キロ、6月202キロ、7月276キロ、8月230キロ)
やはり、「行動につながる正しい決意は、努力・精進を引っ張る」ことは真実である。
トレーニング(1)──30キロの壁
5月よりフルマラソンに向けて、「30キロ走」を開始した。ハーフマラソンとマラソンで決定的に違う点として、30キロを超えると極端にペースが落ちるという、いわゆる「30キロの壁」がある。その壁を経験し、耐性を付けておくためだ。
「壁」となるものは3つあると言われる(諸説あり)。
1つ目は、エネルギーの枯渇。
人間の筋肉や肝臓に貯蔵できる糖質(グリコーゲン)はそれぞれ300グラム、100グラム程度と限られ、30キロ程度の走行で尽きてしまうとされている。脂肪もエネルギー源だが、脂肪を燃焼する際にも糖分が必要となるため、糖分が切れてしまうと「ジ・エンド」だ。
2つ目は、心拍数の上昇。
長い距離を走ると、同じペースで走っているにもかかわらず、心拍数が上がる傾向にある。心臓の疲労や脱水などの複数の原因が重なっていると考えられており、息が上がり酸素が十分に吸えなくなる。結果、糖質をエネルギーとして使う率が上がり、疲労感が一段と強くなる。
3つ目は、着地筋の鍛錬不足。
ランニングは体重の3倍の衝撃が脚にかかると言われ、さらに走るスピードに比例して大きくなる。歩幅が1メートルの場合、マラソンの完走には4万2000歩必要で、片脚だと2万1000回以上、着地の衝撃を受け止めることになる。太ももやふくらはぎの筋肉が弱いと、繰り返し蓄積したダメージで脚がやられることになる。
※他にも、体が壊れる前に発動される脳のリミッターにより、パフォーマンスが左右されるという仮説もある。
初めて練習で30キロ以上走ったときは、途中の自販機で水分補給したにもかかわらず、脱水症状的に手足の末端しびれ、着地のショック疲労で脚の筋肉のしびれを経験した。しかし、この経験がないとフルマラソンは乗り切れない。休日(実際には仕事が入ることもあったが)の前日の夜などを使って、30キロ走の回数を重ねていった。
トレーニング(2)──スピード練習
サブスリーを達成するには、持久力だけでは駄目で「スピード」も必要となる。
3時間を切るには、最低でも、1キロ当たり平均4分15秒のペース(100メートルを25.5秒)で42.195キロを走り続けないといけない。向かい風をはじめとする天候の影響や坂の勾配などもあるため、スタートからゴールまでイーブンペースで走る計画は現実的ではない。
ニッポンランナーズ理事長の金哲彦氏によると、1キロ当たり4分(100メートルを24秒)で楽に走り続ける走力が要るとのこと。すなわち、1キロ当たり4分を切るスピードがなければ、サブスリーはどだい無理な話なのだ。
スピードを上げていくにはどうするか。本などで調べると、「最大酸素摂取量」「乳酸性作業閾値(いきち)」「ランニングエコノミー」の3つが大切らしい。
「最大酸素摂取量」とは、酸素を体内に取り込み、心臓の力で筋肉の毛細血管まで届ける量のこと。心肺能力の強化と毛細血管の発達がポイントとなる。
心肺能力は、週に1回、インターバルトレーニングに取り組み強化した。インターバルトレーニングは高校3年の夏以来、実に26年ぶりである。内容は1000メートル×3本とし、1000メートルの目標は3分30秒以内とした(間は200メートルのjog)。
最初の1本目は、途中800メートルぐらいから大失速した。心肺機能にも限界を感じ、鼻先がツーンとする酸欠状態を味わった。焦らず、腐らず、諦めず、4週目にしてようやく初めて3本コンプリート出来たときは、思わずガッツポーズを決めた。また、毛細血管を筋肉に張り巡らせるため、週末には20キロ以上の距離走を実施した。
「乳酸性作業閾値」とは、疲労要素である乳酸が発生する閾値(この値を超えると爆発的に増加する値)のことで、この値が高いと、より速いペースでも疲労要素がたまらなくなる。閾値ギリギリで20分間走るトレーニングを重ねていくと、乳酸がたまるラインを効率的に上げることができ、いわゆる「スピード持久力」が身につく。
先日の神奈川マラソンのハーフの記録から、自分の閾値を計算してみると(ネット上に計算ツールがある)、1キロ当たり3分58秒。このペースより速くなると急激に乳酸がたまる(らしい)。
隔週1回、1キロ当たり3分58秒で、5キロの閾値走を行った。徐々にペースを速めることができ、8月中旬には、5キロ走を18分20秒(1キロ当たり3分40秒)までもってくることができた。
なお、インターバルや閾値走等のスピード練習をするには、当然のことながら公道は不向きだ。信号機や交差点があるため、まとまった距離を取ることが難しいし、1キロ当たり4分は結構早いペースなので、通行量・交通量の多い道路で行うと、事故の危険もある。
ということで、夜な夜な、400メートルトラック(土のトラック)がある多摩川河川敷まで出向き、インターバル走や閾値走に取り組んだ。
夜の多摩川河川敷。
そもそも、河川敷まで往復で14キロになる。1キロ当たり5分程度で走って向かい、休み(歩き)無しで、トラックでトレーニングを行い、また走って帰る。なかなかの負荷となったが、時間も限られているので、出来るだけ密度の濃い練習を目指した。
最後に「ランニングエコノミー」。正しいフォーム(ロスのない楽なフォーム)で走り、燃費の良い走りをすることだ。かかと着地はブレーキになり、衝撃も大きくなるので、上半身の真下に足を着地させ、地面との接地時間を短くするとともに、足全体で着地することを心掛けた。
また、意外と通常のランニングのスピードよりも、インターバル走や閾値走のスピードで走った後の方が、楽に走れることに気づいた。おそらく、スピードを出すことで腰高になり、体重移動がスムーズになってきたこともあるだろう。
フルマラソンへの最終調整
スピード練習の仕上げとして、8月末に開催された「オトナのタイムトライアル」の3000メートルに申し込んだ。この大会は、箱根駅伝やトラックレースが好きな市民ランナーが手弁当でつくってきた草レース。ペースメーカーは日本記録保持者や元箱根駅伝のランナーなど、「超豪華な」メンバーで構成されている。今回は、代々木公園陸上競技場(織田フィールド)で中距離種目をメインに開催された。
そのタイムトライアルに、目標タイム10分(1キロ当たり3分20秒)でエントリーした。
400メートルのオールウェザートラック(水はけのよい合成ゴムが敷かれた陸上競技場)を走ることは高校生以来のこと。もはや懐かしさを通り越して、前世の記憶のようであった。
On Your Mark(位置について) バン!
「ついていけ! ついていけ!」「ラストー!」、周りの人の声援が熱く飛ぶ。中高生のころの風景がよみがえる。高校駅伝の名門、佐久長聖高校出身のペースメーカーに導かれ、400メートルトラック7周半を駆け抜けた。
結果は9分49秒23。
10分切りは達成した。思い返せば、このタイムは高校入学当時に相当する。
青春の心と体を取り戻した瞬間だった。
かくして8月も終わり、スピードも目途がついた。
体重も58キロまで絞れてきて、もはや外見の体つきだけ見れば(中身の「エンジン」は大違いだが)、箱根駅伝のランナーと変わらないぐらいになってきた。スネ毛がなく、顔がよかったら、ドラマ「陸王」のエキストラにも参加できるレベル(?)だ。
本番までの走行距離は、9月176キロ、10月204キロ。
9月は、仕事環境の急激な変化と副鼻腔炎の発症により、距離を十分に踏むことはできなかった。
10月は、なんとか時間を捻出し、レース1週間前までに20キロ走をこまめに取り入れ、追い込みをかけた。しかし、それ以上時間を割くことは難しく、結局、練習で一度も42.195キロを経験することのないまま当日を迎えることになった。
一説によると、サブスリーは「月間走行距離300キロを3年間続けないと達成できない」という。「そこまで要らない、100キロでも可能」と言う人もいる。人によるのだろう。いずれにせよ、月間走行距離が一度も300キロを超えることはなく、また、35キロから先は未知数のまま本番に突入した。(続く)
【関連記事】 【1年半でサブスリーを達成した40代中年男のマラソン奮闘記】
2017年11月18日付本欄 (1)青春の心と体を取り戻せ!
http://the-liberty.com/article.php?item_id=13791
2017年11月25日付本欄 (2)ハーフマラソンに初挑戦
http://the-liberty.com/article.php?item_id=13839
2017年12月2日付本欄 (3)マラソンランナーへの体づくりと食生活
http://the-liberty.com/article.php?item_id=13861
2017年12月16日付本欄 (5)マラソン当日のレース運び
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