「人前で話すのが苦手な人」へ――精神科医がおすすめする 心を浮かせる名作映画(4)

2017.05.31

精神科医

千田 要一

プロフィール

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

その映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

(参照)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12795

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12810

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

◆                   ◆                   ◆

今回は、「対人緊張が激しい」という人に、オススメの映画を処方いたします。

この悩みも、前回の記事( http://the-liberty.com/article.php?item_id=12977 )で取り扱った「他の人ができることができない」という悩みに近いかもしれません。

「周りよりも、人と話すのが苦手」という悩みの原因として、一つには、前回ご紹介したような「間や空気を読むのが苦手」という場合もあります。

一方、意外と多いのが、逆に「気を遣いすぎてしまう」というケースです。それが極端まで行ったのが、「社交不安障害」「スピーチ恐怖」「吃音(どもり)」「赤面恐怖」「視線恐怖」と言われる症状です。当院にもそうした悩みを持った方が多数来られます。

もちろん、克服する方法はあります。その時の心の変化を追体験できる映画をご紹介します。

(1)「英国王のスピーチ」(★★★★☆)

まずご紹介したいのが、2010年のアカデミー賞で主要4部門を受賞した超名作、「英国王のスピーチ」。これは、史実に基づいてつくられた映画です。

英国王室のアルバート王子(コリン・ファース)は、小さい頃から吃音症でした。妻(ヘレナ・ボナム=カーター)や子供たちの前でさえ、滑らかに話すことができません。王の代理などとして公衆の前でスピーチをしても、散々な結果に終わります。

妻に説得され、王子は、言語療法士のライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の元に訪れました。ローグの治療法は、他の医者に比べて少し変わっていました。発音の練習など、表面的な治療は行うのですが、吃音症の原因をつくった子供の頃の記憶など、個人的な話を聞き出すのです。

王子は最初、「平民」であるローグに、身の上の話をするのをためらうのですが、二人は次第に友人として心を通わせていきます。

そんな中、父王が亡くなってしまいます。一度は、兄が王位に就き、王になることを恐れていた王子は安堵します。しかし、異性問題で兄はすぐに退位してしまいます。

王子はとうとう、「ジョージ6世」として即位。彼が最も恐れる事態となります。王位継承の際のスピーチでも、大失敗してしまい、周囲を不安にさせるのでした。

そんな王を待ち受けていたのは、ヒトラー率いるナチスドイツとの戦争でした。ジョージ6世は、不安におののくイギリス国民を励まし、心を一つにするため、緊急にラジオの全国放送で演説をすることになります。

はたしてジョージ6世は、吃音症を見事克服し、名スピーチによって国民を鼓舞することができるのでしょうか……?

この物語では、心が体に影響する「心身相関」が一つのテーマになっています。幼い頃に受けた虐待や、父親の厳しい躾、左利きを無理やり右利きに矯正されたこと、兄弟との関係――。様々な辛い記憶が、彼に恐怖心を植え付けていました。

それを克服する鍵となったのは、目を背けていた過去と向き合うこと、王を支える人々との愛や友情、そして、国民を励ましたいという「奉仕の心」でした。

こうした心因性と思われる問題に悩んでいる人は、自分に置き換えながら、この映画を見ていただくことをオススメいたします。

(2)「コヨーテ・アグリー」(★★★☆☆)

次にご紹介するのが、2000年に公開された「コヨーテ・アグリー」という作品です。

人気ソングライターになることを夢見る女性が、対人恐怖を乗り越えて、成功へとステップアップしていく姿を描いたサクセスストーリーです。

片田舎のニュージャージーからニューヨークに出てきた21歳のヴァイオレット(パイパー・ペラーボ)。人前で歌うことがどうしてもできないため、自身のデモ・テープを持って売り込みに回ります。しかし、ことごとくボツに。とうとう所持金も底を尽いてしまいます。

途方にくれた彼女は、クラブ・バー「コヨーテ・アグリー」で職を得ることに。しかし、そこは女性たちによる過激なダンス・パフォーマンスを売りにするバー。最初はあっけにとられていたヴァイオレットですが、あることをきっかけに、人気バーテンダーになっていきます。

しかし、彼女の本来の夢は、「ニューヨークの歌姫」になること。一度は夢を諦めかけた彼女ですが、周りの叱責や励ましを経て、再びギターを手に取ります。

そしてある時、ついに一本の電話が、彼女にチャンスを運んできます。ただしそれは、観客にライブで歌を披露しなければならないというもの。当日、彼女はやはり舞台の上で、頭が真っ白に。しかしその時、驚くようなことが起きます――。

ヴァイオレットも、精神医学では「社交不安障害」と診断されます。しかし、彼女の障害の背景には、「死別した母親も、社交不安障害だった」という思い込みがありました。実際は勘違いだったのですが、「自分にも病気が遺伝している」という自己暗示が、彼女を縛っていたのです。

こうしたネガティブ暗示で、不幸になってしまっている方は、当院に来られる方の中にも多くいらっしゃいます。

また、ここではネタバレさせませんが、クライマックスの舞台で彼女が恐怖心を克服するシーンも見ものです。

そのシーンに関連して、恐怖を感じているものを克服する「暴露療法」という方法をご紹介したいと思います。それは、本人がストレスに感じているものに少しずつ挑戦するというもの。例えば、電車でパニックになる人は、乗る区間を一駅ずつ伸ばして行きます。スピーチが苦手な人なら、話し相手を1人、2人、3人……と増やしていきます。

エマーソンというアメリカの有名な思想家の名言で、「あなたが恐れていることをしなさい。さすれば、恐怖は必ず消え去ってく」というものがあります。その言葉の通り、恐れていることに、少しずつでも挑戦することで、案外、恐怖心が消えていくということがあります。

他には、以下のような映画がオススメです。

  • プリティ・プリンセス(★★★☆☆)……スピーチ恐怖で劣等感の塊の女子高生(アン・ハサウェイ)が、最後にはヨーロッパの王女になる現代版「シンデレラ」物語。

  • 青い鳥(★★★★☆)……ある日、某中学校に赴任してきた吃音症の教師(阿部寛)が、生徒たちのいじめ問題に取り組み、人生で本当に"大切なこと"を問いかけた意欲作。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

【関連記事】

2017年5月10日付本欄 精神科医がおすすめする 心を浮かせる名作映画(3)―「他の人ができることができない」と悩んでいる人へ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12977


タグ: 心理学  虐待  緊張  社交不安障害  対人  暴露療法  評論家  ポジティブ  精神科医  千田要一  映画  名作  心を浮かせる名作 

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