全国寺社に相次ぐ液体染み 司法に宗教的価値観を
2017.04.07
被害を受けた、東京都・増上寺の三解脱門。
《本記事のポイント》
- 神社仏閣に液体をかける犯罪が多発
- 警察は容疑を「建造物損壊」としているが、本来は「礼拝所不敬罪」
- 司法の判断にも宗教的価値観が求められる
東京都港区の増上寺で、国指定重要文化財の「三解脱門」に油のような液体がかけられているのが見つかった。寺社に液体をかけられる被害は、奈良県吉野町の金峯山寺や東京都渋谷区の明治神宮をはじめ、今月だけで6件も発生している。警視庁は文化財保護法違反や建造物損壊容疑として、容疑者の行方を追跡中だ。
ただ、寺社のような宗教施設を汚した場合、本来は「礼拝所不敬罪」で罰せられるべきである。
刑法第188条では、神祠・仏堂・墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為、あるいは、説教・礼拝又は葬式を妨害することを礼拝所不敬罪と定めている。今回のように、寺社に液体をかけるという行為は、明らかに「不敬な行為」だ。
宗教施設を傷つける行為は、過去にもいくつか発生している。2012年7月には和歌山県の那智の滝に無断で登ったとして、礼拝所不敬罪で登山家3人が現行犯逮捕された。那智の滝は熊野那智大社の別宮、飛龍神社の御神体だが、彼らはそのことさえ知らなかったという。
また、2015年2月以降も、京都・奈良の各地の神社で油のような液体が重要文化財や国宝などにかけられる被害が相次いだ。ただ、この時は器物損壊容疑で逮捕されている。
物質的な価値観では測れない罪の重さ
いずれも宗教施設や御神体を傷つけるという事件であるにも関わらず、逮捕容疑が一致しないことから、司法において宗教的価値観の位置づけがあいまいであることが伺える。
宗教施設を建築物損壊罪や器物損壊罪でのみ罰するならば、寺社が「観光のための一施設」と捉えられているということとなる。
寺社は、信徒や氏子など信者にとって、仏や神、己の信仰心と向き合う聖なる空間だ。その聖域を汚す行為は、信者の信仰心を踏みにじることとなり、仏神に対する侮辱ともなる。その罪は、建築物損壊罪や器物損壊罪とは根本的に異なるものだ。
信仰の場を汚すという行為は、物質的、経済的な損害にとどまらず、宗教的見地から見て重大な罪であるという認識が求められる。(智)
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