「4月3日に農協改革法案が閣議決定されました。私自身、これをもって辞任します」

全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章(ばんざい・あきら)会長は、同会理事会の場で唐突に辞意を表明し、その後の記者会見で任期途中での辞任を正式に発表した。JA全中が安倍政権の農協改革に従ったことに対し、改革反対を唱えていた責任を取って辞任したのではないかとも見られている。

農協法改正案では、JA全中傘下の地域農協に対する指導・監査権が廃止され、JA全中は特別民間法人から一般社団法人に移行されることが決定した。安倍政権はこの改正案によって、地域農協をJA全中の支配下から解放し、創意工夫で農家の収益力を向上させ、農業を成長産業に変えようとしていた。それに対し万歳氏は、JA全中組織の維持のために抵抗してきたが、最終的には政府の強い圧力に押され、改正案を受け入れた。

この辞任によって、これまで絶大な政治的影響力を誇っていたJA全中の力が弱まる可能性は高い。農協改革を進める安倍政権の改正案は一定の評価ができる。

十分とは言えない安倍政権の農政改革

ただ、安倍政権の農協改革を中心とした農政改革は、十分とは言えない。

たとえば、安倍政権は株式会社の農業への参入規制を緩和し、結果として新規参入する企業が1500社を突破した。今まで競争を避けていた農業に企業の参入を促すことは、農業再生のカギを握っている。しかし実際に個々の事例を見てみると、企業の農地所有へのハードルが高く、企業が5年間投資して土づくりをした農地を、地主の要求で泣く泣く返還した事例もある。

また、農家以外の個人や団体が農地を取得することを厳しく制限している農地法にも問題が多い。同法は改正されたものの、企業が農業生産法人に出資できるのは原則25%まで。これでは結局、経営の主導権は農家が握ることになり、企業は自由な農地運営ができない。このため、「寸止め改革だ」という声を漏らす企業もある。

安倍政権には、このような現場の声に耳を傾け、実質を伴う政策の実現を期待したい。農協も「農家の発展に貢献する」という本来の使命に回帰し、政府と協力して農業再生に向けて改革を進めることが望まれる。(真)

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