デンマークの海運会社「A.P. モラー・マースク」が所有する、世界最大のコンテナ船がこのほど、横浜に寄港し、船舶ファンなど多くの人々が集まった。

このコンテナ船は「Triple-E」と呼ばれ、全長が東京タワーより長い400メートル、船底からの高さは73メートルという巨大さだ。甲板の広さはテニスコート80面分以上あり、8畳間ほどの大きさのコンテナを1万8千個運べる。

しかし、残念ながら今回寄港した目的は、完成直後の「お披露目」であり、この世界最大のコンテナ船は二度と日本に寄港することはないと言われている(24日付朝日新聞)。

その理由は、現在の日本には、この世界最大クラスのコンテナに荷物を積載した状態で受け入れられる港がないからである。コンテナ船の大型化という世界の潮流に乗り遅れた日本には、巨大コンテナ船に対応できる「深さ」を備えた港湾がないのだ。もちろん今回は、荷物を積まない「カラ」の状態での入港だった。

振り返ってみれば、1980年代、日本の港湾では神戸が世界4位のコンテナ取扱量を誇り、「アジアのハブ港湾」の役割を担っていた。しかし近年、日本の港湾取扱量は、最高でも東京の29位(2012年国交省発表)と大幅に減っている。これとは逆に、韓国の釜山港が世界5位に上昇、日本に代わって「アジアのハブ港湾」の役割を果している。

釜山港の台頭は、韓国政府のインフラ整備への真剣な取り組みの表れと言える。韓国は90年代から釜山港を東北アジアの物流中心拠点港とすべく努力してきた。港湾施設整備政策、民間企業による港湾管理運営制度の導入、港湾ITシステム政策など、港湾利用者のニーズに対応した政策を実施し、さらには入港料や荷下ろし費用といったコストを日本の6割程度までカットするなど、積極的に国際競争力を高める戦略を展開している。

日本も、「国際戦略港湾(東京・横浜・川崎・大阪・神戸)」を設定し、国際競争力強化を図っている。しかし、上記のような韓国政府との対応の差は大きく開き、日本のコンテナ港湾は国際的基幹航路ネットワークから外れる恐れが出てきた。日本政府によるインフラ整備が喫緊の課題であるのは明らかだ。

運輸政策研究機構の岡本直久研究員らの研究結果では、上記国際航路から日本が外れた場合には大きな損失が発生するが、逆に日本が港湾のインフラ整備を進めた場合には、投資額を上回る大きな便益が発生することが示されている。

国際物流の潮流から取り残されないよう、日本政府は早急にインフラ整備を行う必要がある。アジア各国の港湾と比較して、アドバンテージを持たない日本の港湾が国際競争力を高めるためには、迅速かつ大胆な施策が必要だ。ここで必須なのが「コスト」と「リードタイム」の更なる改善だろう。

まず、ターミナルコストを下げなければならない。そのためには地方自治体が行っている港湾経営の財政改善に政府が手を貸すと同時に、シンガポールや釜山で行われたような民営化も進めなければならない。そして、リードタイム短縮のため、港湾関連の行政手続の電子化や海外のシステムとの連携についても早急に対応しなければならないだろう。

さらに、国際物流について考える際に問題となるのが、昨今の南シナ海での中国の動きである。円滑な国際物流のためには安全保障の側面も重要となる。安倍晋三首相が目指すように、日本が「アジアのリーダー」としての役割を担うには、シーレーンの防衛は必須だ。そのためには、集団的自衛権の行使容認や憲法改正などの問題にも早急に取り組む必要があるだろう。

(HS政経塾 数森圭吾)

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