ベトナム政府はこのほど、南シナ海・西沙諸島付近の海域で、自国の巡視船が中国の公船による衝突を受け、6人の負傷者が出たと発表した。6日にも、フィリピン当局が違法操業をしていた中国漁船を拿捕し、中国側が反発するといった事件が起こったばかりで、南シナ海は緊迫した状況になっている。

南シナ海は、多くの国が領有権を主張し、衝突の火種になりやすい海域だ。中国は、周辺諸国の反発を無視して、同海域に眠る天然資源の開発や、外国船への漁業規制を設けるなど、「中国の海」という既成事実を築き上げつつある。

中国による領有権の主張は、1950代に設定した「9段線」という歴史的な経緯に拠る。9段線とは、1947年に中国国民党が、11の線からなる主権と権益の境界線を明記したものを、中国共産党が9つの線に改め、領有権を継承したもの。しかし、この9段線は、「領海や経済的排他水域は領土の性質に基づく」とする国際海洋条約の原則には当たらず、「南シナ海のほぼ全域が中国の海」という中国の主張は暴論と言える。

中国の主張に対して、フィリピンは、3月に国際仲裁裁判所に提訴し、9段線の無効の確認を求めた。この提訴について、「中国網」(日本語電子版)は早速、4月2日に「国際海洋裁判所の裁決には執行方法の規定がない」とした上で、「もし、中国が敗訴したとしても、裁決を実行に移すことは難しく、紛争解決に決定的な意義をもたらさない」と報じるなど、フィリピンによる提訴も意に介さないようだ。

このような緊張状態を抑制するため、オバマ米大統領は先日、日本や韓国、フィリピンなどの国を訪問し、「アジア重視」を国際社会にアピールした。だが、今回の事件は、そのオバマ氏の顔に泥を塗るものであり、ロシア制裁で手一杯なアメリカを見透かしたものだ。ウクライナ危機へのアメリカの対応が、アジアにも影響し始めたとも言える。

一方、同じアジア諸国である日本の安倍晋三首相は、中国の脅威を念頭に置いた安全保障の連携強化のため、欧州各国を訪問している。6日の北大西洋条約機構(NATO)の本部での演説で、安倍首相は、中国に関して「国際社会の懸念」と名指しで批判したが、その懸念が現実のものになった。

ベトナムやフィリピンは、中国の領土拡張欲に対抗するためのパートナーを求めている。日本は、尖閣諸島をめぐる自国周辺での中国との争いに関心があっても、南シナ海での存在感は薄い。しかし、南シナ海の安定がなければ、日本のシーレーンにも悪影響を及ぼしかねず、そろそろ南シナ海にも、日本の存在感を示していかなければならない。イギリス、フランスとの防衛装備の共同開発を進めるなど、欧州訪問で実績を挙げた安倍首相には、南シナ海での中国の横暴にもクギを刺してもらいたい。(慧)

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