アメリカとフィリピンの両国は、フィリピンへの米軍の派遣拡大を可能にする、新軍事協定を調印した。オバマ米大統領は否定するものの、明らかな「中国対策」である。しかし本来は、日本こそがその役割を果すべきだ。

今回の協定は、常駐ではないものの、米軍は比軍の基地の中に独自の施設をつくったり、航空機や艦船を巡回派遣したり、比軍との合同訓練を拡大する。核の持ち込みは禁止で、協定の有効期限は10年で更新も可能。米軍はフィリピンに、22年ぶりに回帰することになる。

中国の脅威にさらされているフィリピンにとって、米軍との関係強化は心強いだろう。だがこの協定と並行して、同国は日本の自衛隊に対しても、大きな期待を寄せていた事実がある。

第二次安倍政権の発足直後の2013年1月、フィリピンを訪れた岸田文雄外相との会談後、同国のロサリオ外相は「(対中)均衡勢力としての『より強い日本』は、地域の安定を促進する一助になる」と明言。また同国の政府筋は、日本側の憲法上の制約を承知の上で、「海上自衛隊との、より踏み込んだ直接的な協力と連携」を求める声もあった(2013年1月14日付産経新聞)。

また海外メディアによると、フィリピンのガズミン国防相は同年6月、小野寺五典防衛相との会談後の記者会見で、「フィリピン政府は他国の駐留、とりわけ日本の自衛隊の駐留を、この分野における共同戦略として、既存の取り決めに基づき歓迎している」と語っていた。

今回、フィリピンと軍事協定を結んだアメリカだが、慢性的な財政赤字が続き、中国に多くの国債を握られているのが現状だ。つまり、中国に米国債の投げ売りを外交カードとしてチラつかせられると、弱腰になったアメリカがフィリピンを「無血開城」する危険性も残る。中国軍による本土侵略の可能性が低いアメリカにとっては、フィリピンを見捨てるという選択肢は十分にあり得るわけだ。

一方、日本は、もし中国にフィリピンを抑えられてしまえば、海上交通路(シーレーン)を遮断され、物資が届かなくなり、たちまち干上がってしまう。その後、本土を侵略される危険性も高まる。つまり、日本とアメリカでは、フィリピンに対する「重要性」が異なるのである。

そうであるならば、本来、日本は憲法を改正してでも、軍拡する中国を警戒するフィリピンと手を組んで、同国への自衛隊の駐留を進めるべきだ。それが、日本を含めたアジア地域の平和と繁栄を守ることにもつながる。安倍政権の掲げる「積極的平和主義」は、こうした文脈でも論じられるべきではないか。(格/冨)

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