ニューヨークタイムズ紙で地政学者ロバート・カプラン氏の新刊「Asia's Cauldron」が紹介されている。同氏は地政学者の中でもリアリストとして知られており、南シナ海が21世紀の世界にとってどのような意味を持つのかを説明している。

カプラン氏はアメリカが19世紀末から20世紀初頭にかけてスペインを倒し、カリブ海を手中に収め、パナマ運河を開き、大西洋~太平洋間の貿易をコントロールすることによって、西半球の覇権を握ることができたと説明する。そして、この21世紀における新しいカリブ海が、現在総トン数で世界貿易の5割以上の荷物が通り、インド洋と太平洋を結ぶ、南シナ海であると言うのだ。

また、もし南シナ海における米軍と中国軍の戦力が逆転した場合、アメリカがカリブ海の掌握によって握った覇権を、今度は中国が南シナ海を通じて再現する可能性があり、このため、南シナ海は21世紀において最も覇権競争が激しい海域となるであろうと指摘する。

カプラン氏はリアリストらしい視点から、道徳的な価値判断や感情を排除して東アジア情勢を見つめている。そのためか、南シナ海を巡る競争では米ソ間で存在したイデオロギーや政治的・道徳的価値間の衝突はないであろうとも述べている。また、同氏は南シナ海問題は感情に左右されやすい民主的なプロセスではなく、各国の専門家に任せたほうが解決策が見つかる可能性が高いと言う。

しかし、これはいささか短絡的すぎるのではないだろうか。地政学上の問題は、確かに将棋盤を見るような冷徹な計算が必要な時もある。ただ、未だ一党独裁で宗教弾圧・人権弾圧を行っている中国に周辺国が飲み込まれ、自由や人権といった価値観が後退していく未来が訪れるとしたら、それは明らかに歴史を逆流させる行為であり、周辺国にとっては計算だけで結論を出せるものではない。

同記事は最後にこう綴っている。「Poor Southeast Asia. So far from God, so close to China」(可哀想な東南アジア。神からあまりにも遠く、中国にあまりに近い)。これは無神論を国是とし、宗教弾圧・人権弾圧を繰り返し、強大な軍事力によって中華思想・中華帝国の復興を目論む中国の脅威にさらされている周辺国の現状を明確に表現しているように見える。もし上記のような未来が、リアリストの目から見て最も現実的な未来であるのならば、それを変えるためにはどうするべきかを真剣に考えていかねばならない。(中)

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