南シナ海を巡って、中国と東南アジア諸国との領有権争いが続いている。中国が南シナ海に独自に設定する「九段線」をもとに領有権を主張していることに関し、米ラッセル国務次官補は、2月初めの米議会公聴会で「中国の主張は、地形に基づいていない。海洋主権を主張するために「九段線」を用いることは、国際法に矛盾する」と語り、中国に対して正当な根拠を出すか、あるいは主張を引っ込めるように求めた。

中国が主張する「九段線」とは、南シナ海に中国の支配領域をU字型に九つの点で囲ったものである。ブルッキングス研究所の主席研究員であるジェフリー・ベーダー氏も6日、同研究所のサイトで「初めて米国政府が中国の九段線による主張が国際法に反すると明確な声明を出した」「米国政府の見解は、『領海と排他的経済水域が設定できるのは、領海は有人島の海岸線から12海里、排他的経済水域は200海里まで』というものだ。中国の主張は、国際海洋条約の見地から見れば、無効である」と論説を掲載した。

一方、中国の見解は、九段線は地形ではなく歴史的経緯を論拠としたものだという。

その歴史的経緯とは、1947年に中華民国は、南シナ海の主権と領海の範囲を確立し、世界に公布。49年に中華人民共和国を建国し、隣国ベトナムへの配慮から、一部を修正して現在の「九段線」とした、というものだ。

韓国が李承晩ラインを引いて、「竹島は自国の領土だ」と主張しているように、中国は九段線を一方的に引き、「周辺国は黙認していたのだから、中国領だ」と身勝手な主張をしている。フィリピンは九段線が無効であることを確認するためにオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴しているが、中国は裁判を受けるつもりはないようだ。

領有権争いがある中で、米国が立場を鮮明にしたのは、南シナ海上空に新たに防空識別圏を設定しようとする中国の動きがあるためだ。また、昨年12月に米軍イージス艦「カウペンス」が中国艦艇の接近を受けて緊急回避する事件も起きており、南シナ海は揺れに揺れている。こうした中国の外交・軍事的挑発が、中立を維持してきた米国の立場を明確にせざるを得ない状況を作ったのだろう。

ラッセル氏が領有権の根拠に言及して中国を牽制したこと自体は評価できるが、アジア諸国は米国の言葉よりも行動を期待している。米国はどちらの側につき、いかなる行動を取るのか。オバマのアジア外交方針は不透明なままだ。

日本は南シナ海の問題を「対岸の火事」と思ってはならない。海洋安全保障を考えれば、南シナ海と東シナ海はつながっており、日本の問題でもある。日本は、国際法を無視する中国に対し、ASEANとの連携を強めアジアでの存在感を示すべきだ。(慧)

【関連記事】

2014年2月6日付本欄 現代のナチスは日本? 中国? フィリピン・アキノ大統領が「中国はナチス・ドイツ」

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7341

2014年1月30日付本欄 尖閣巡って日中戦争!? 中国政府高官の発言にダボスが凍りついた

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7313

2013年12月16日付本欄 日本はアジアの盟主たれ 「日・ASEAN特別首脳会議」開幕

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7071