米起業家のイーロン・マスク氏はこのほど、新交通システム「ハイパーループ」構想を発表した。チューブ内にカプセル型列車を走らせるというもので、ほぼ音速の時速1220キロ走行が可能だ。28人乗り車両を30秒ごとに発車させる。構想ではサンフランシスコ―ロサンゼルス間600キロを35分で結ぶ。仮に東京―大阪間で走らせると、約20分となる。驚くことに、既存の高速鉄道よりも費用が安く、実用化まで7~10年だという。

イーロン・マスク氏は若くしてITビジネスで成功した大富豪。創業したテスラ・モーターズは、今や高級電気自動車の代表的企業である。2012年には、同氏設立のスペースX社が宇宙船「ドラゴン」を打ち上げた。民間で初めて国際宇宙ステーションにドッキングさせ、世界中を驚かせた。マスク氏は映画「アイアンマン」の主人公モデルとも言われている。かなり実績がある有名起業家だけに、今回の構想には期待が高い。

「ハイパーループ」は「コンコルドとレールガン(電磁砲)とエアホッケー盤をあわせたようなもの」とマスク氏は説明する。原理はこうだ。まず、チューブ内を真空に近づけて空気抵抗を減らす。それでも高速で走れば強い風圧が来るので、正面にファンをつけて空気を後ろへ逃がす。さらに、逃がした空気の一部を下に回し、空気圧で車体を浮かせる。これで地上との摩擦も無くなる。磁力で浮く一般的なリニア鉄道とは、この点で大きく異なる。加速時にはリニアモーターを用いる。

実は「チューブ列車」というアイデア自体は前からあった。新幹線やリニアモーターカーが車体を流線型にするように、高速列車には常に「空気抵抗対策」という課題がつきまとう。そこで「空気さえなければ」と、世界中で研究されているのが「真空チューブ列車」だ。アメリカでは、ET3という「真空のチューブ内を走るリニアモーターカー」というアイデアが特許を取っている。中国四川省の西南交通大学も「真空リニア」を研究中だ。しかし現実的に、都市間を結ぶ巨大チューブを、完全な真空にするのは難しいようだ。今回の構想は、真空に近づけつつ、同時に空気を「受け流す」という点でかなり画期的と言える。

まだまだ叩き台とも言われる今回の構想だが、交通技術の進歩をさらに「加速」させたことは間違いない。数百キロ以上離れた土地に一時間以内で行ける日は近い。日本人にはリニア新幹線でも”未来的”に見えるようだが、交通技術自体はさらに先を行っている。(光)

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