安倍晋三首相の経済政策である「アベノミクス」によって、日本経済は長期のデフレ不況から立ち直りつつある。今後は円安や財政規律に対する懸念を振り払い、力強い経済成長路線を敷けるかどうかが課題になるだろう。

円相場は昨年9月から25%も安くなっており、下がりすぎを懸念する声が出始めている。米ピーターソン国際経済研究所のウィリアム・クライン上級研究員はこのほど発表したレポートで、円は「10%ほど過小評価されている」と述べ、今後も円安が進めば主要国が協調介入を検討する必要があると論じた。同研究所の為替相場に関するレポートは、民間では指折りの評価を得ているものだ。

アベノミクスの目的はあくまでデフレ脱却と景気回復だが、内需拡大が思うようにいかず、輸出頼みの成長と見られれば為替操作の批判を受けかねない。クライン氏もレポートで、「根本的な問題は、アベノミクスがどれくらい経済成長を後押しすると期待できるか。またその成長が、日本と同様に失業問題に取り組む周辺国を犠牲にした貿易黒字の増加によるものではなく、どの程度内需の活性化によるものなのかということだ」と論じている。

一方で、景気回復が順調に進めば、今度は消費税増税などによる財政再建を求める声が出てくるのは目に見えている。31日に日本経済の年次審査を終えた国際通貨基金(IMF)は、提言などをまとめた声明を発表した。声明は「(政策が)きちんと実行されれば、日本のためになるだけでなく、世界経済の成長と安定を強化することにもなる(Successful implementation would not only benefit Japan, but also strengthen growth and stability of the global economy)」と、アベノミクスを高く評価した。だがその反面、来年から予定される消費税引き上げは、財政再建に向けた「不可欠な初めの一歩(an essential first step)」であるとし、将来的に消費税は15%以上に引き上げるべきだと提言している。

景気回復は緒に就いたばかりで、ここで消費税率を引き上げて景気を一気に冷え込ませれば、「安倍政権は消費税増税を実現させるために、日銀にじゃぶじゃぶお金を刷らせて景気を水増しした」と、後世の歴史家に書かれることになろう。

政府内でも財政再建を優先するよう求める声が出始めているが、経済が成長しなければ税収は上がらず、借金返済はおぼつかないと知るべきだ。第二次大戦中に膨大な負債をため込んだアメリカが戦後の財政再建に成功したのも、力強い経済成長が理由だった。景気回復の後は、増税ではなく、むしろ減税などによって民間経済を活性化させ、爆発的な経済成長を目指すべきである。

ヨーロッパでは、財政危機にある国がIMFなどに緊縮財政を強要され、結局は景気の冷え込みで借金返済がさらに困難になるケースが相次いだ。その意味でも、安倍政権が増税ありきの財政再建の議論に屈することなく、民間主導の活発な経済成長によって財政を健全化する道を世界に示せれば、その意義は大きいと言える。

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