2年越しの内戦で7万人以上の死者が出ているシリア内戦が、本格的な国際紛争に発展しつつある。イスラエルは5日、シリアの首都ダマスカス近郊に空爆を行い、シリア軍兵士など少なくとも42人が死亡した。イスラエルとたびたび交戦している、レバノンの武装組織ヒズボラに運搬されようとしていたミサイルを狙ったものと見られる。

アサド政権が反体制派を武力弾圧しているシリア内戦で、ヒズボラは友好関係にあるアサド政権への支援を強化している。反体制派が掌握しているレバノン国境に近いクサイルという町では、シリア軍の攻撃作戦にヒズボラ兵士が直接参加しているという。

シリア内戦は政府軍と反体制派との戦いから、ますます国際的なイスラム教宗派対決の色彩を強めている。シーア派の武装組織であるヒズボラは、同じくシーア派のイランからの武器供与を受け、アサド政権と協力関係を保ってきた。これに対して、スンニ派主体のシリア反体制派は、スンニ派のアラブ諸国と協力関係にある。

シリア政府軍が内戦を戦いながら反撃する余力はないと見て、今回、イスラエルは空爆に踏み切ったものと見られる。だがシリアのメクダード外務次官は、イスラエルによる空爆について「これは宣戦布告だ」とコメントし、報復攻撃の可能性を示唆している。このままなし崩し的に戦闘が拡大していけば、シリア内戦は、イスラエルとイランの本格的な代理戦争へと発展する危険もある。

これに対して、イスラエルと同盟国のアメリカは無責任にも傍観するばかりだ。オバマ大統領はこれまで、シリア政府軍が化学兵器を使えば「越えてはならない一線を越えたことになる」として介入を示唆していた。しかし、英仏イスラエルに続いて、自国の情報機関がシリアで化学兵器が使われた可能性があると明らかにした後も、介入に慎重な姿勢を崩していない。

ヘーゲル米国防長官がシリア反体制派への武器供与を検討すると表明した一方で、オバマ大統領は3日、「地上部隊の派遣はアメリカとシリアにとっても利益にならない」と述べている。

逆に目に付くのは、問題解決を国際社会に丸投げする姿勢だ。アメリカは介入決断までの時間を引き延ばすかのように、シリアでの化学兵器の使用について国連に調査を委託。調査委員の一人は、反体制派も化学兵器を使用した可能性があると示唆している。

また、ケリー米国務長官はモスクワへと飛び、これまでアサド政権側を支援してきたロシア側と7日に協議を行う。しかし、シリアをめぐってはこれまでにも国連安保理での決議が検討されたが、中ロの反対がこれを阻んできた経緯があり、ケリー国務長官の訪ロが成果を生むかは定かでない。

虐殺という人道的側面に加え、大量破壊兵器の使用や拡散、国際紛争への拡大のリスクなど、早期に内戦の決着を付ける必要性は日増しに高まっている。しかし、オバマ大統領のアメリカが、「世界の警察官」の名を返上したも同然の優柔不断さを見せる中で、国際社会の「決められない政治」は深刻化する一方だ。

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