中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が17日に閉幕。名実ともに、「習近平新体制」が正式に発足した。今回の全人代では、国家主席に選ばれた習近平・総書記が各派閥に配慮したという見方も出ているが、「他派閥の影響力を排除し、軍を中心とした強固な体制を築いた」というのが本質だろう。

まず、中国の権力争いを理解するには、次の3つのゆるやかな派閥があることを押さえておきたい。新国家主席の習氏が率いる高級子弟グループ「太子党」、前国家主席の胡錦濤氏が率いる「中国共産主義青年団(共青団)」、元国家主席の江沢民氏が率いる「上海閥」である。

昨年11月の中国共産党大会で習氏は、党トップの「党総書記」と、軍トップの「党中央軍事委員会主席」の座についた。このとき注目されたのが、最高指導部である政治局常務委員7人の構成が、太子党・上海閥連合6、共青団1になり、共青団の影響力が削がれたことだった。

今回の全人代では、上海閥が牛耳っていた鉄道省が省庁再編を理由に解体され、多くの部署が廃止・縮小、国営企業として再出発することが決まった。その一方で、共青団のエースである李克強・首相の下に、汪洋・前広東省党委書記などの共青団の重要人物が多く配置された。

一連の動きについて、「習氏は派閥のバランスに配慮した」という見方もあるが、果たしてそうか。中国の政治体制が、「党」が「国家」を指導する一党独裁であることを考えれば、今回の共青団に対する“厚遇"も大きな権限を与えたとは言い難い。つまり、習氏は、昨年の党大会で最大派閥である共青団の影響力を削ぎ、今回の全人代で上海閥の影響力を弱める一方で、軍を握って自らの権力基盤をさらに強固なものにしたのである。

これを裏付けるように、全人代の閉幕式で習氏は、国家主席就任後初めての演説を行い、「戦争に打ち勝てる強い軍にするという目標に基づいて、国家主権や安全、発展がもたらす利益を断固守り抜かねばならない」と、改めて富国強兵路線を掲げた。また「中華民族の偉大な復権という『中国の夢』を実現させるため、国家の富強、民族の振興、人民の幸福を実現させる」として、国民を鼓舞する「中国の夢」という言葉を25分間の演説の中で9回も使った。

習氏がすでに軍を掌握し始めたことは本欄でも伝えてきたが、国際社会に向けて堂々と「国のトップ」と胸をはれる国家主席の座を手にしたことによって、習氏のやり方にストップをかけるものは中国国内にはなくなった。ただ一つあるとすれば「民意」だが、習氏は国内の不満さえも国外に向けさせるはずだ。その筆頭は、領土問題や歴史問題でぶつかる日本である。

17日には、北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」が、アメリカへの核の先制攻撃も辞さないと表明し、同時に「米帝に土地を丸ごと差し出し、再侵略を狙う日本も決して例外ではない」とした。

安倍政権は当初、7月の参院選まで「安全運転」を目指していたが、もうそれどころではない。中国・北朝鮮の現状を冷静に分析すれば、日本の国防強化は待ったなし、「猛スピード」でアクセルを踏まなければならないのである。(格)

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2012年11月15日付本欄 習近平氏が総書記と軍トップに就任 次期衆院選は「救国選挙」である

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2013年3月号本誌記事 「第二のヒトラー」を打ち倒す方法 - 編集長コラム

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=5513