米国シンクタンク・外交問題評議会の会長リチャード・ハースは『Foreign Policy Begins at Home:The Case for Putting America's House in Order』(外交政策は自国から始まる)と題する本を4月に発刊する。そのなかで、「アメリカは他国への軍事介入や人道的介入を大胆に制限し、社会保障費の伸び率をコントロールしたり自由貿易を促進する等の内政を優先すべき」と説いている。

時期を同じくして、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院学長のバリ R. ナスル氏は『The Dispensable Nation』(なくても困らない国)を発刊。同氏によれば、オバマ大統領や民主党はアメリカの財政赤字のおかげで、世界の紛争からの撤退を正当化できるという。

このような論調はすでに、二期目のオバマ政権の顔ぶれに現れている。オバマに使命されたCIA長官ジョン・ブレナン氏は、無人機やサイバー攻撃等の能力を高く評価しており、国防長官に指名されたチャック・ヘーゲル氏とともに、大規模な軍事介入には否定的だ。

そんななか、元ニューズウィーク誌編集長でジャーナリストのファリード・ザカリア氏は、『フォーリン・アフェアーズ誌』1-2月号に「Can America Be Fixed?」(アメリカは修復されるか?)というタイトルで論文を寄せている。それによれば、アメリカは2029年に税収の総額と社会保障の額がほぼ同額になるという。国は投資が先行しなければ成長しないが、社会保障の経費がかさんで投資も国防もできなくなるというのだ。

現在でも米国政府は、65歳以上の国民一人当たりに、18歳以下の国民一人当たりの4倍の金額を支出している。これが、投票型民主主義の冷厳な結果だ。

だが、ここから先が、冒頭の二人の論者と違う。

現在アメリカは、借金を減らすため、向こう10年で政府支出を1兆2千億ドル、強制的に削減する予定である。だがザカリア氏は、小さくなるパイを奪い合うだけではだめだという。「アメリカは、スプートニク・ショック(ソ連が人類初の人工衛星を打ち上げたことに対して西側諸国が受けたショック)があったからこそ、科学技術の振興に奮い立つことができた。そのことを思い出し、科学技術の振興、インフラの整備、国防の近代化を図るべきだ。さもなくば中国のような専制国家に負けてしまう」という。

「財政赤字があるから内向きで当然」とする米国衰退論とは対照的な議論を展開したザカリア氏。中国のような専制国家が優越していいわけがないと暗に論じつつ、悲観論を退けている。中国は、「2020年に台湾併合、2030年には6隻の空母を持ち、2040年には西太平洋から米軍を追い出す」という長期ビジョンを持っている。これに対抗しうるビジョンを、オバマ氏は有していなければならない。(華)

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2013年2月号記事 2013年、日米欧危機を吹き飛ばせ - 編集長コラム

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2013年1月8日付本欄 国防長官にヘーゲル氏 防衛・外交人事を政争に使う米政界の愚

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