このほどカンボジアの首都プノンペンで行われた東アジア・サミットで際立ったのは、米中間の自由貿易圏をめぐる競争だった。

サミットでは、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が推進している自由貿易圏である、東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉がスタート。合意に至れば、16カ国が参加する、GDP約20兆ドル(約1600兆円)の自由貿易圏が誕生する。また、RCEPの核となる日中韓による自由貿易協定(FTA)についても、交渉開始が宣言された。

これに対して、オバマ大統領はプノンペンで、環太平洋戦略的経済提携協定(TPP)参加国の会合を持つことを提案し、中国を牽制した。アメリカ主導のTPPは中国を含まないため、中国以外の国々で自由貿易圏を作り、国際ルールを守らない中国に圧力をかけようという「中国包囲網」の意味合いがある。

政府・民主党はTPP、日中韓FTA、RCEPの三つを、「同時並行的に進める」方針だ。しかし、中国の覇権主義の脅威をいかに食い止めるかが外交・防衛での最大の問題となっている今、最優先すべきはTPPであることは明らかだ。

また、中国との経済関係を深めれば、日本側は大きなリスクを背負い込むということも忘れてはならない。9月の官製反日デモで日系企業などが大規模な焼き討ちに遭った際も、100億円とも言われる日本側の損失について、中国側はしかるべき謝罪も賠償も犯人の処罰も行わず、法治国家とは言えない姿勢を取っている。

加えて、サイバー攻撃の問題もある。9月の反日デモの際には、日本の政府機関や民間のサイトが改ざんされるなどの被害が出た。コカ・コーラ社などグローバル企業は、中国からと思われる情報漏えいを狙ったサイバー攻撃を受けている。日本国内でも昨年、三菱重工などが被害に遭った。

こうした国防に関わる重大な問題を無視して、中国との自由貿易圏構築を急ぐのはいただけない。商売上の利益を求めて、国を売ることになりかねない。

アジアを舞台にした米中による事実上の冷戦がすでに始まっていることを、日本は認識すべきだ。民主主義や自由主義、人権、自由貿易など、価値観を同じくするアメリカと連携して、中国の独裁覇権主義が地域を席巻することのないよう、日本も戦うべきである。

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