2011年1、2月の反政府デモを受けてムバラク大統領が辞任した「エジプト革命」は、今年6月、ムスリム同胞団の推すモルシ氏が新大統領に就任。現在の焦点は、新憲法を制定し、今回の民主化革命を制度化できるかどうかだ。

エジプトDaily News紙によると、立憲党の党首である元国際原子力機関事務総長モハメド・エルバラダイ氏と大統領選の候補者であったハムディーン・サバヒ氏は、新たなエジプトの新憲法の起草を行っている憲法制定会議のボイコットを呼びかける声明を9月末に出した。

声明は、「憲法制定会議から漏洩した憲法草稿には、エジプトにおける機会の平等を中心とした社会的・経済的権利を保障する基本的概念が欠如している。非民主的な手続きによって憲法制定が成されることを断固阻止するため、この憲法制定会議をボイコットすることを呼びかける」と述べている。

この背景としては、政治団体、宗教界、経済界のリーダー、学者を始めとする知識人から広く意見を採り入れて新憲法を制定していくという当初の理念が後退し、ムスリム同胞団やモルシ大統領による恣意的な人選や過度の介入に反発が高まっているためだ。

同時に、この声明はエジプト国内における少数派の宗教・宗派組織を活発化させている。

エジプトのシーア派組織の代表であるバーハス・アンワル氏は9月末、イスラムの各宗派、コプト教会、その他の世俗的な政治団体に対して、憲法制定会議からの脱退を呼びかけた。

このように新憲法制定を巡って、近代的な自由や人権を希求する勢力と、宗教的伝統を重視してイスラム主義を強める勢力との争いに、宗教間、宗派間の争いも加わり、混迷を極めつつある。

しかしエジプト革命の中心人物であり、新憲法制定のカギを握るエルバラダイ氏としても、「今ここで憲法制定会議を投げ出したところで何の解決にもならず、一新された憲法制定会議にはムスリム同胞団とモルシ大統領による影響力がさらに強まることは不可避」との思惑があるため、会議からの脱退ではなく、断固抗戦の姿勢を見せていくはずだ。

エジプトの民主化の帰趨は、この憲法問題がどのようになるかにかかっているといっても過言ではないだろう。そして、ひいては中東・イスラム圏における政治的変革にも必ず影響してくる。引き続きエジプトの憲法制定の動きから目が離せない。(カイロ=城取良太 HS政経塾生)

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