京都の世界遺産・仁和寺が宗教と観光の間で揺れている。
国の名勝「御室桜」で知られる仁和寺では境内で、花見のシーズンにすき焼きや酒を提供する茶店が営業していた。しかし2011年1月に寺が「宗派の戒律上、肉食はよくない」として突然、約40年続いた茶店に営業不許可を突きつけた。
一方的に打ち切りを通告された茶店側は、営業権の確認や慰謝料の支払いを求めて京都地裁に訴訟を起こし、今年5月30日、地裁は寺側に慰謝料120万円の支払いを命じたことで、ひとまず一件落着した。
しかし、これを報じた産経新聞は、判決そのものよりも判決理由の内容の方が関係者の注目を集めたと伝えている。茶店を不許可とするにしても、その理由は「宗教上」とは無関係で、背後にある寺の本音に踏み込んでいる。
これによると、寺は花見のシーズンだけ入山料を徴収しているが、それは法人税の課税対象となり、毎年500万~1千万円の法人税を支払っていた。しかし判決では、花見を寺の関連団体である公益財団の事業と位置づければ、税制上有利になるという思惑が寺側にあり、そのためにも営利性の強い茶店営業を打ち切る必要があったと指摘。結局は寺が節税対策として茶店を営業禁止にしたと結論づけている。
宗教はその教えで人々の魂や心を救済するものだが、花見が宗教活動(公益活動)の一環と位置づけ、課税を軽くしようということをどう考えればいいのだろうか。教えの内容が形骸化した伝統宗教では、救済の意味が分からなくなっているのだろうか。寺院の側だけではなく、それを伝えるマスコミも、宗教の本来の使命について知ってもらいたいものだ。(純)
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