出版不況の中、過去5年で書籍売上が約1割減少しているのに対し、ライトノベル(イラストをつけた中高生向け文庫本)の売上だけは、平成16年の265億円から21年には301億円へと、逆に1割以上増加しているという。
実際に書店に行ってみても、ライトノベルのコーナーは、文庫本売り場のかなりの面積を占めるようになっている。
こうしたライトノベルの人気には、いくつかの要因が考えられる。
一つは、人気作品が次々にアニメ化・マンガ化されるなどのメディア展開によって、これまで本を読まなかった層を新しい顧客として取り込んだ、ということ。
また、ライトノベルの顧客層の中心が中高生であるため、「面白い」と評判になれば、その情報が学校やメール、ツイッターなどを通して一気に広がっていくということもある。
だが、ライトノベルの人気の要因は、主人公に感情移入しながらページをめくり続け、そこから「人としてのあるべき姿」を感じ取っていく、という、現代文学が忘れた「物語」としての本質的なものではないだろうか。
文学作品は、人間の「心の闇」に対する追求が高いが故に、その物語の主人公は、読者にとって必ずしも「人としての理想像」にはならない。
これに対し、ライトノベルの人気作品、例えば「とある魔術の禁書目録」や「アクセル・ワールド」などの主人公は、徹底的に熱い。仲間は絶対に見捨てないし、どんな苦難にあってもそれを克服して何度でも立ち上がる。そして敵対する者をすら許し、魂を救おうとする。
そうした姿に、若い読者は惹かれている。主人公の持つ特殊能力にではなく、主人公の精神性そのものに魅力を感じているのである。
「文学作品が売れなくなっている」のは、顧客である読者を満足させる作品が提供されていないためでもある。
人が真に求めているものは、「人間性の闇」ではない。
「人はどれほど精神的に崇高になれるのか」、という「光」もまた、強烈に求めている。
文学界、出版界の一部には、「ライトノベルなど、マンガを文章で書いたようなものであって、小説ではない」と、その本質的な価値を認めようとしない人たちもいる。
しかし、ライトノベルの売り上げが上がっている事実は、読者が小説に何を求め、人間性のどういった部分に魅力を感じているかを、示しているのではないだろうか。(黒)