昭和30年代の東京下町の街並みと人情を描いて大ヒットした「ALWAYS三丁目の夕日」の第3作目が、劇場公開されている。

今より貧しく、物や情報の乏しい時代の中にあって、現代では希薄になった近所づきあいや家族の絆を描いており、観客は、同時代を生きた50代の人も多いという。

この映画に描かれている気分にぴったり合うものに五木寛之著『下山の思想』がある。

戦後の焼け野原から立ち上がり、世界第2位の経済大国に押し上げたが、20年も不況が続き、後は下山するしかないという考え方だ。出版元が大々的に広告を打っており、大書店の売上ランキングに入ってきている。

この著作で象徴的なのは、「日本の人口は世界の60分の1なのだから、収入も60分の1でいい」という主張だ。つまり、日本は現在、全世界のGDPの約12分の1を占めているので、世界の60分の1という人口比に当てはめると、収入は5分の1でいいということになる。これは月収30万円の人が5分の1の6万円でやっていくという話になる。

おもしろいことに「三丁目の夕日」が描いている1964年の日本の平均月収が6万円余り。五木寛之氏の考えと、この映画が見事にシンクロしている。

映画についてはエンターテイメントなので目くじらを立てるほどではないだろうが、それが日本の経済活動にも影響を与えるのが心配だ。もし多くの日本人がそれに共鳴し、経済発展を否定したならば、高度成長以前に戻ってしまう。

今から月収5~6万円で生活することが、本当に幸せなのか。現実的に考えれば、「下山の思想」は極貧の思想であり、それを受け入れるかどうかということに過ぎない。(泰)

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2012年3月号記事 長期不況をもたらした「鎖国型下山の思想」とどう戦うか(1)

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=3732