ユーロ危機に対して欧州はこれまで緊縮財政で対応しようとしたが、目立った成果は上がらず、財政危機はイタリアなど先進経済にまで波及してしまった。ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は、2日付米ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、欧州危機は政府の無駄遣いではなく、むしろ過度の倹約が原因だったと論じている。

  • 2008年以前の好景気には、ドイツから欧州南部への貸し付けが増えたが、これらのほとんどは政府ではなく民間に対するものだった。バブルがはじけた時、これら債務国の民間支出は一気に落ち込んだ。
  • ここでの問題は景気を後退させる政府の歳出削減をいかに避けるかだったが、欧州は歳出削減と増税を行った。トリシェ欧州中央銀行総裁(当時)は「市場の信用を高める政策(=緊縮財政)は景気回復を促すのであって、妨げはしない」と理由を述べたが、この筋立ては外れた。
  • しかも、南部の競争力を高めるために、北部の賃金や物価の上昇ペースを速める必要がある。欧州全体で今より高いインフレ率が必要だが、欧州中銀は金利の引上げに動くなど、これを拒否している。
  • 欧州一律の緊縮財政と中央銀行のインフレ恐怖症で、債務国は借金地獄から抜け出せなくなっている。これはデフォルトや銀行の取り付け騒ぎ、金融崩壊に向かう道である。アメリカ経済も積極財政と金融緩和が必要だが、欧州同様に世間の議論は緊縮財政とインフレ恐怖症に支配されている。

「市場の信用」を口実にした不況下の増税に、中央銀行のインフレ恐怖症とくれば、どこかの国とそっくりである。大規模な公共投資で経済を下支えし、金融緩和でデフレから脱却すべきというのが、いま日本経済が取るべき道なのだ。さもなくば欧州の轍を踏むことになる。

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