オバマ外交がこの11月で、大きな転換点に立った。中国と距離をとり、軍事的にも経済的にも「中国包囲網」を形成するようになった。

もともとオバマ大統領は中国を最重要視していた。サブプライムローン後の景気回復のためには、急成長する中国にアメリカ製品を買ってもらいたいという狙いだった。そのために、09年の政権発足後、中国に接近し、米中戦略・経済対話を行い、「G2」時代とも言われた。

しかし中国は、自国の輸出を最優先して人民元安政策をとり続け、オバマ大統領の思惑通りには進まない。去年明けからクリントン国務長官は、外交・軍事的に中国への牽制を強めたが、大統領はなおも中国に期待を寄せていた。

ただ、景気の二番底が懸念され、来年の大統領選での再選が危ぶまれる中、背に腹は変えられず、中国以外のアジア諸国との連携を強める方針に転換。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉を加速させるとともに、中国が海洋活動を活発化させる南シナ海問題で一歩も譲らない姿勢を鮮明にした。

今回のASEAN首脳会議でオバマ大統領は、中国に航行の自由や国際法の遵守を求め、直前には、インドネシアにF16戦闘機を24機供与すると発表して中国を牽制。

オーストラリア北部ダーウィンへ最大2500人の海兵隊を駐留させることも発表。その際の演説で、アジア太平洋を「最重要地域」と位置づけ、アメリカの役割を拡大する方針を表明した。

アメリカが軍事的に南シナ海周辺地域に強く関与するのをテコに自由貿易圏を形成しようとしている。そこがオバマ大統領の再選戦略の中心だ。だから、外交・軍事面を重視するクリントン国務長官と思惑が未だに一致するわけではない。

中国もこのまま黙っているわけではない。日米豪や東南アジアとの連携に、盛んにクサビを打ち込み、分断しようとしている。

気になるのは、南シナ海重視の一方で、東シナ海がまったく話題に出てこないことだ。アジア太平洋に展開する米兵約2万人のうち、1万7千人が日本に駐留しているが、中国の中距離弾道ミサイルの射程内にあって、危険にさらされている。

オバマ大統領は「国防予算の削減で、アジア太平洋地域が犠牲になることはない」と語っているが、日本周辺から後退しても、アジア太平洋トータルで軍事プレゼンスが維持できればいいという意味にもとれる。

中国は、アメリカの空母を狙い撃ちできる弾道ミサイルの開発を強化し、中国や台湾近海に接近させない戦略を進めている。アメリカは、中国のミサイルの射程外に戦力を分散する「統合エア・シー・バトル構想」で対抗しようとしているが、東シナ海や日本近海の戦力が相対的に落ちるのは避けられない。

日本としては、米軍との連携はもちろん、オーストラリアや東南アジア諸国、インドとの軍事的連携を強化していくことが、中国の分断策への対処として重要だ。(織)

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本誌2011年12月号 2012年 世界はこうなる

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