アメリカの長者番付のトップ10に、20年以上にわたってランクインし、今もビル・ゲイツと1位を競い合っている「超大金持ち」のウォーレン・バフェット氏が8月、ニューヨーク・タイムスに寄稿し、オバマ政権を支援し、国の財政赤字を解消するために「今まで甘やかされてきた金持ちの税率を上げよ」と提言して、ヨーロッパ諸国にまで波紋を広げている。

バフェット氏の主張の柱は、「アメリカのトップ400の超大金持ちが投資などで得るキャピタル・ゲインや配当金などの不労所得に対する課税率を上げれば、かなりの歳入増が見込めるはずだ」ということだ。

そして、「低所得者層や中間所得者層の人々が、アフガニスタンなどでその身を犠牲にし、国家が財政危機にある時に、自分たち金持ちが、マダラフクロウのような絶滅危惧種並みの保護を受けながら、何もしなくて良いのか」と訴え、ブッシュ減税以前の税率に戻ったとしても、超大金持ちには痛くもかゆくもないと言っているのだ。

バフェット氏の提言は、「社会的地位身分、財産を持つものは、進んでその義務を果たし、国家に恩返しせよ」というノブレス・オブリージュの精神の表れではある。

ただ、気になるのは、そうした高貴な精神が税金という制度と結びついているという点だ。個人として寄付をするなり、財団をつくって資金を有益な事業に振り向けるなりすることがノブレス・オブリージュに基づく行動であるべきだろう(バフェット氏はすでに多額の寄付を行っている)。

もちろん富裕層が特別に優遇されてはいけないが、逆に富裕層にとって不公平な税制もその国を衰退させる。欧州各国の富豪も「我々にもっと課税を」と訴えているが、彼らもさまざまな寄付や慈善活動をしていることだろう。大衆向けのアピールと考えたほうがいいかもしれない。〈宮〉