インド・中国分析戦略センター会長
ジャヤデーヴァ・ラナデ
インド政府内閣官房の次官補、国家安全保障諮問委員会(NASB)の委員、駐ワシントン・インド大使館の公使などを歴任。現在は、中国分析戦略センターの会長を務める。著書には『China Unveiled: Insights into Chinese Strategic Thinking』(2013年)、『Cadres of Tibet』(2018年)、『Xi Jinping's China』(2018年)、共著として『Strategic Challenges India In 2030』(2020)がある。
激動の国際情勢でますますインドのプレゼンスが高まる中、中国分析を専門とするインド外交官として中国共産党の脅威に警鐘を鳴らし、中国包囲網の重要性を強く訴えてきたジャヤデーヴァ・ラナデ氏に現地で話を聞いた。
──1989年6月4日に天安門事件が起きた際、あなたは外交官として北京に赴任されており、中国共産党へ抗議活動を続ける学生リーダーに対し「政府が排除に動く前に広場から逃れなさい。命の保証はない」と説得にもあたられるなど、世界に衝撃を与えた事件を現場で目の当たりにされています。
そうしたご経験に加えて、中国語情報を幅広く収集・分析され続け、まだインド外務省内で中国共産党による拡張主義への警戒がさほど強くなかった1980年代から、一党独裁体制の危険性を指摘されてきました。
NSC(国家安全保障会議)に政策提言を行う諮問機関・国家安全保障顧問委員会(NSAB: National Security Advisory Board)のメンバーも務め、退官後にはインド初となる「中国」に特化したシンクタンクを創設。今に至るまで、シンクタンクとしての研究リサーチ発信や各紙への寄稿を通して、インドの安全保障を下支えされています。時代に先駆けた中国共産党指導部への深い洞察は、どこから来るのでしょうか。
ラナデ氏: 基本的には、「中国を研究していた」ことによります。彼ら(中国共産党指導部)が何を感じ、何を計画しているのかは、新聞で語られることが多いのです。中国で出されている新聞を注意深く読めば、手がかりが得られます。
一つの論文や演説としてまとまって発信されるわけではありませんが、さまざまな新聞のなかに、小さな"破片"を見つけていました。
例えば貿易の話のなかで、「なぜインド洋は『インド洋』と呼ばれるのか。インドの海ではない」という一文が投げ込まれる。そして数カ月後に、別の記事で「インド洋と呼ばれているからといって、インドの海というわけではない」と書かれていたりするのです。こうした論理は、南シナ海の権利を主張する際にも使われました。「ここは『南シナ海』と呼ばれており、中国の海である」と。
少し話が広がりますが、似た事例をもう一つ。
最近、中国が「仏教は古代中国の宗教だ」と主張することがありますね。しかし、そもそも宗教や哲学といったものは、誰かが独占的に"所有"できるものではありません。
仏教は各地に伝わるなかで地域文化を吸収し、ある程度の変化を経ましたが、基本的な根本哲学は同じです。悟りを開かれた仏陀が基本原理を説かれ、弟子たちがチベットや他地域へ広めました。一つの流れは東南アジアへ、もう一つは北方へ、二つの流れがあります。北方の流れは中国、朝鮮、日本へと伝わり、途中で少しずつ変化しました。
このような流れを見れば、仏教が"中国の宗教"ではないことが分かります。
というのも中国による主張の裏には、「仏教を中国由来の宗教だと主張することで、支配域を広げたい」という本心があると考えています。「中国の人々が信じているから、仏教は中国の宗教だ」という意味ではないと感じます。つまり「仏教は中国由来の宗教だ」と主張することは、信仰する人々を支配する一つの手段なのではないかと。
こういったやり方は他の国では見られません。タイでも、日本でも、韓国でも。中国だけです。なぜ中国共産党がそのような手段を採るに至ったのかは別の議論ですが、「この地域全体(アジア全域)を中国は支配してきた」という意識が背景にあるのでしょう。























