アメリカの首都、ワシントンD.C.は決して安全な街ではない。犯罪率は減少傾向にあるとされるが、人口10万人当たりの暴力犯罪の発生率は、長年に渡って、全米50州を上回りワースト1位の座にある(FBI発表の犯罪レポート)。実際、議事堂やユニオン駅(ワシントンで最大の駅)の周り、そして、北東地区と南東地区などは、強盗や殺人、カージャック(自動車の強奪)、暴行事件なども多く、夕方以降は(場所によっては昼間でも)1人で道を歩くことが危険な場所も多い。

去年の大統領選の時にも争点の一つとして、ワシントン警察が昨年1月1日に発表した犯罪統計で、2022年と比較して23年のワシントン市内での殺人件数は35%増の274件、自動車盗難件数に至っては、22年から23年にかけて82%も増加していることが話題となった。

今年8月初めには、政府効率化省の元スタッフの青年が、少年グループから襲われそうになっていた女性を救おうとして、その少年たちに暴行される事件が発生し、彼が血まみれとなって倒れている画像が出回って、大きな話題となった。

その事件の後、トランプ大統領は、犯罪の取り締まり、薬物中毒者やホームレス問題などに対処するため、首都ワシントンD.C.の警察の統治権を掌握し、数百人の州兵を配備すると発表し(8月11日)、現在も実施中だ(共和党の知事がいる6つの州から約2000人の州兵派遣が決まっている)。これはアメリカ国内では非常に大きな話題となっている。

全国版の主要メディアは、「連邦政府の過剰な介入だ」「権力の乱用だ」などと言って、トランプ政権による州兵投入を問題視している論調が大半だ。しかし、地元では、州兵投入によって治安が向上したことで、住民は安心している。

トランプ政権が州兵を派遣し、警察の統治権を掌握してから20日間で、前年同期比でカージャックは87%減少し、暴力犯罪は45%減少し、ワシントン全体の犯罪件数は15%減少したという。

またトランプ氏は、ホワイトハウスや連邦議会議事堂、その他の主要機関が集まる「首都ワシントンを美化する」ことの大切さを繰り返し呼びかけている。

ほぼ民主党支持者が占めるワシントン(共和党支持者はわずか6%)のローカルメディアも、「州兵たちは、トランプ氏の『Beautification(美化)』の指令によって、街のゴミを掃除してくれたりもして、綺麗になっている」などと好意的に紹介している(8月26日付NBCワシントン版、同日付Hey DC他)。

ワシントンに派遣された州兵は、ワシントン周辺で40以上の「美化と修復」プロジェクトに取り組む予定だ。ワシントン州兵はXに、歩道周りを清掃する隊員たちの動画を公開した(下画像)。この活動は「美化と修復」プロジェクトの一環だという。

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手袋とゴミ袋を持って、ワシントンの歩道周りを清掃する州兵たち(画像:8月24日付コロンビア特別地区州兵のXへの投稿より)。

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トランプ氏が「落書きを消したい」と発言したことを受け、ニューヨーク・アベニュー橋の落書きを消す作業が進んでいると、NBC4 ワシントンの記者が報じている(画像:8月26日付 NBC4 ワシントン電子版の動画より)。

ワシントンD.C.治安強化政策については、8月末、ミュリエル・バウザー市長(民主党)も、当初の批判的論調から大きく変化した。バウザー氏は27日、「我々は、この街で、(ワシントンの警察が)できることを強化する警察の増員に非常に感謝している」と指摘し、これがワシントンの犯罪減少につながったと評価。「カージャックが減れば、銃の使用が減り、殺人や強盗が減れば、近隣住民はより安全だと感じ、より安全になることが分かっている。だから今回の増派は重要だ」「私とトランプ氏は同じ立場だ」と発言したことも話題になった。