澁谷 司

アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は昨年12月、北京の外交政策アドバイザーの言葉を引用し、「習近平主席は今でも『東洋は勃興し、西洋は没落する』と信じている」と指摘した(*1)。

習主席は、中国の巨額債務、不動産バブルの崩壊、迫りくるデフレにもかかわらず、米欧からの経済的圧力に対抗・報復するための"工業大国化"を推進しようとしているという。

だが現実として、習主席には道徳的誠実さと政治的手腕が欠如しており、中国を絶望的な状況に導いたという批判が相次いでいる。

(*1)2024年12月24日付『RFA』

巨大債務にトランプ関税に習主席は対処しなければならないが……

習近平政権が発足して10年余り、中国の成長の大部分は借金、不動産投機、インフラ投資によってもたらされた。個人消費の拡大など、持続的な成長につながる可能性のある改革は、共産党の支配を強化するための政策が優先され、無視されてきた。

この問題は散々指摘されてきたが、習主席は依然、中国経済を管理するトップダウン式アプローチと、中国をより大きな産業大国にする計画を信じて、自らの方針を貫いているという。

特にトランプ政権発足による米国とのさらなる対立を回避するべく、半導体を含む製品の生産を目的とした包括的な産業サプライチェーンを、国内で構築しようとしている。

もちろん、現在の習氏の経済政策手腕では望み薄ではないか。

習主席はトランプ時代の関税にも戦々恐々で、これにも対処しなければならない。

関税引き上げに対抗し、チップ、自動車エンジン、防衛関連製品の製造に必要な原材料の、米国内での販売を制限する等の措置で報復するという。他方、発展途上国の同盟国を開拓し、米国に一層の圧力をかける目算だ。

一方で、世界貿易機関(WTO)に加盟していながら長年にわたり、市場アクセスや補助金政策でWTOや主要貿易相手国から批判を受けている中国は、そのことによる制裁リスクを減らそうとしていると、台湾の南華大学国際企業学部の孫国祥(そんこくしょう)教授は分析する。

その一環として、昨年12月28日、中国共産党は突然、2025年1月1日から935品目について最恵国待遇を下回る臨時輸入関税を実施すると発表した(*2)。いわば、WTOに公約した関税の引き下げを部分的に履行したと言える。

この一事を見ても、習氏が外からの経済圧力にも警戒していることが伺える。

(*2)2024年12月30日付『中国瞭望』

デフレの何が問題かが分からなかった習主席