訴えるべき政策内容をはっきりさせない米民主党大統領候補のハリス氏は、この2~3週間、トランプ氏非難のみに集中してきた。有効な経済政策の提示を求めている民主党支持者や議員が、かなり不満を持っていることをリベラルメディアが指摘している。
10月22日に発表されたロイター・イプソスの調査によると、有権者は経済問題ではトランプ氏の方がハリス氏よりもよいアプローチを取っていると考えており、その差は46%対38%だった。同調査では激戦州の有権者の61%が、経済は「間違った方向に進んでいる」と答えている。
9月30日にハリス支持を発表したニューヨーク・タイムズも(1960年から60年以上、毎回、民主党候補者を支持)、ハリス氏批判を強めており、10月23日にCNNで開催されたハリス氏のタウンホール(質疑応答集会)に関して、「彼女のデフォルトの答えは、『トランプはもっと悪い』しかない」「質問者はダイレクトに聞いているのに、ハリスは話を逸らす」「彼女は、未だに自分が何者かを定義できていない(模索中)」など辛口な批判をしており(10月24日付)、ハリス氏支持を発表したメディアとは思えない。
その直後に、中立系の議会紙「ザ・ヒル」は、「現政権の方向に満足している人が28%しかいない状態で(10月25日発表ニューヨーク・タイムズによる調査)、彼女は現政権にいる人なので、不利だ」と評した(10月25日付)。
また、著名な世論調査専門家のネイト・シルバー氏(民主党支持者)は、「私の勘では、(勝つのは)トランプだ」("My gut says Donald Trump")と発表し(10月23日)、全主要メディアが速報を流して話題となったが、その後、「両者が拮抗しているという世論調査は嘘だ。不正操作している」と発言し(10月31日)、衝撃が走った。
前述の議会紙「ザ・ヒル」は、「ハリス氏はここ数週間、トランプ氏を攻撃することのみに集中している。しかし世論調査ではトランプ氏に支持を奪われている。8年以上も全国的な注目を集めてきた後でトランプ氏の欠点はよく知られているため、トランプ氏に対するさらなる批判に動機づけられる可能性は低いと有権者は述べている」などと報じている(10月29日付)。
民主党大統領候補者を支持することが慣例の大手メディアが「誰も支持せず」
さらには、常に民主党の大統領候補の支持を表明してきた米代表的政治紙「ワシントン・ポスト」が10月25日、約40年ぶりに特定の大統領候補の支持を表明しないと発表し、大きな衝撃が走った。その3日前には、大手メディア「ロサンゼルス・タイムズ」(一貫して民主党支持)が、特定候補を支持しないと発表して、話題になっていた。
民主党支持者や識者、議員、カマラ陣営などは大きなショックを受け、リベラル派からワシントン・ポストに批判が殺到。ワシントン・ポストの電子版の解約件数は25万件以上となり、ハリス氏を支持していた編集幹部数人は抗議のため辞職したと報じられている。
アマゾン創業者で2013年から同紙オーナーのジェフ・ベゾス氏は珍しく、ワシントン・ポストに「The hard truth: Americans don't trust the news media (つらい真実:アメリカ人はニュースメディアを信じていない)」(10月28日付)と題して寄稿し、いずれの候補者も支持しない理由を釈明した。
彼は、ジャーナリストとメディアの信頼が地に落ちており、ほとんどの人はメディアは偏向していると思っていることを指摘し(10月14日発表のギャラップ調査でマスメディアを信じる国民は史上最低記録の31%にまで落ちたことを引用)、メディアがいずれかの政党の候補者を支持することは、政治的に偏っているという認識を生むことになるため、メディア本来の独立性を取り戻すためと主張した。
ロサンゼルス・タイムズ紙のオーナー、パトリック・スンシオン氏と同様に、ジェフ・ベゾス氏は巨大企業の経営者であるので、ハリス氏の政策(特に経済政策)が信用できないことが理解できるのではないだろうか。著名投資家ウォーレン・バフェット氏(民主党支持者)も「誰も支持しない」と発表した(10月23日)。