2024年5月号記事

Pick Up Movie

編集部がオススメする「今こそ観たい」映像作品。

「オッペンハイマー」

3月29日(金) 、全国ロードショー

【レビュー】

第二次世界大戦下、世界に原子爆弾をもたらし、「原爆の父」と呼ばれた米科学者オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩の生涯を描いた本作は、昨年7月の全米公開を皮切りに伝記映画として歴代1位の世界興収を記録。今年3月、日本公開となった。監督は、『ダークナイト』『インターステラー』などの重厚な作品を送り出してきたクリストファー・ノーラン。ピューリッツァー賞受賞作品のノンフィクション『「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』をベースに、濃密な映像を完成させた。

第二次大戦中、アメリカ政府は極秘プロジェクト「マンハッタン計画」を立案。ナチス・ドイツが先に核兵器を保有することに強い危機感を覚えたユダヤ系のオッペンハイマーは、開発リーダーとして参加を快諾した。優秀な科学者たちを率いた彼は、世界初の原爆の開発に成功し、英雄視される。

しかし、日本への原爆投下の惨状を聞いた彼は苦悩を深めていく。そして、核開発競争の加速を懸念した彼は、政府の意向に反して水爆開発に強く反対したため、共産主義者との過去が問われていった。米ソ冷戦、赤狩りの嵐──激動の時代の中で、オッペンハイマーは次第に追い詰められていく……。

この映画はまるで、彼らがなぜ核兵器を開発したのかを理解させながら、それが「なすべきことだったのか」を問うてくるようだ。オッペンハイマーの主観的な経験を追体験しながら、「自分ならどう判断するのか」を、圧倒的な没入感とともに考えさせる。

太陽を輝かせ、生命の源ともなる核エネルギーは、巨大な破壊力をも持つ。招来する結果を見通し切れない人間心理や政治的要因も含め、核開発の背景を知るための一つのよい材料になるだろう。