中国国家統計局は6月15日、5月の「固定資産投資(=投資)」と「社会消費財小売総額(=消費)」、及び、「不動産開発投資」という重要な数字を公表した。
"読み取りにくい"統計と悲惨な経済実態
中国の国内総生産(GDP)で1番大切な「固定資産投資」は、単月表示ではなく、1-4月、1-5月のそれぞれの累計で発表している(*1)。これでは、具体的な状況が良くわからないだろう。
「固定資産投資」について国家統計局は、1-5月は1-4月に比べて、4.0%成長したと主張している。だが、計算すればすぐわかる通り、5月単月の「固定資産投資」は前年同月比マイナス21.2%と大きく落ち込んでいる(グラフ1)。中国経済が大変な状況に陥ってしまった事を示す。
グラフ1
さらにこの投資を政府部門と民間部門とに分けて見てみる。実は、昨年1-5月累計では「政府投資」が8.5%増、「民間投資」が4.1%増(前年同期比)と、どちらも少なくとも数字上の成長を見せていた。ところが、1年後の今年1-5月累計では、「政府投資」が8.4%、「民間投資」がマイナス0.1%となっている。とりわけ、民間投資が"マイナス"を記録したのは、特筆すべきではないだろうか。
次に、統計局は「社会消費財小売総額」が今年5月、前年同期比12.7%成長したと強調している(*2)(グラフ2)。だが、その比較対象の2022年5月は前年比でマイナス6.7%と大きく落ち込んでいた。そこから12%増と言っても、消費が伸びたとは、とても言えないだろう。
グラフ2
ちなみに、今年4月も前年同期比18.4%増だった。だが、これも前年4月は前々年比マイナス11.1%なので、素晴らしい数字とは言い難い。
昨年は6月から9月にかけて消費が前年同期比プラスとなったことも考えると、やはり今年も6月(7月中旬に公表)以降の数字くらいは見なければ、本当に消費が上向いたかどうかわからない。
不動産開発投資は前年比マイナス38%
他方、中国のGDPの約20~30%を占める「不動産開発投資」(裾野が広いため)(*3)だが、依然、厳しい状勢にある。
統計局は「固定資産投資」同様、単月ではなく、1-4月、1-5月の累計で示している。これではやはり、何がどうなっているのかわからない。そこで、単月毎の図表を作成してみよう(グラフ3)。
グラフ3
グラフにはないが、2022年5月は前年同期比で18.1%成長していた。ところが、翌6月以降の1年間、ずっとマイナス続きである。
特に、今年5月の前年同期比マイナス38.7%という数字は"異常"である。不動産市場は深刻な事態にあると言っても過言ではないだろう。不動産売買が飽和状態で、ひょっとすると、バブルが崩壊しつつあるのかもしれない。
莫大なコロナ死者数もごまかされている
さて、話は変わるが、例年、民政局の「民政第4四半期政統計データ」は、翌年の2~3月に発表される(*4)。だが、「昨2022年の統計データ」は例年よりかなり遅く、ようやく今年6月9日に発表された。
同統計データは、今まで最後に必ず「火葬遺体数」が記されていた(そして、2022年、中国では遺体火葬率が60%を超えると推測されていた)。ところが、今年6月に発表された同データでは突然「火葬遺体数」が消えていたのである(*5)。
更に、まもなく同データ全体がなぜか"削除"されていた。
一方、国家統計局が1月17日に発表した「2022年の死亡者数」は1041万人だという(*6)。しかし、その統計期間が問題で、「2021年11月1日~2022年10月31日」という中途半端なものである。これでは、到底、2022年の死者数全体とは言えないだろう。
つまり、昨年11月と12月にかけての、中国での新型コロナ再発の"大流行期"は含まれていない。当局は面子を重んじるためか、あるいは『孫子』の兵法─内外に「偽情報」を流す─に従ってか、あえて"大流行期"を含める事をしないのだろう。
中国疾病管理予防センターは、昨年12月8日~今年2月9日で、病院で疫病死した人は、8万3150人だと発表している。そして、今年1月4日がピークで4273人死亡したという。
また、今年5月、中国におけるウイルス学の権威、鐘南山氏は中国人の85%(およそ11億人~12億人)は新型コロナに感染したのではないかと推察した。
他方、今年2月、米ニューヨーク・タイムズ紙は、様々な論文や専門家の意見から、中国では新型コロナで100万人~150万人が死亡したのではないかと推測している。
(*1)6月15日付『国家統計局』発表
(*2)6月15日付『国家統計局』発表
(*3)6月15日付『国家統計局』発表
(*4)『中華人民共和国民政部』発表
(*5)6月12日付『中国瞭望』
(*6)6月14日付『星洲网』
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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