地震発生翌日に、福島第一原発1号機の原子炉を冷やす海水注入を一時中断したとされた問題で、東京電力は26日、「実際には海水注入は継続していた」と発表した。

この問題をめぐっては、海水注入によって核分裂反応が続けざまに起こる「再臨界」の可能性を危惧(※実際には、海水注入による再臨界の危険性はほとんどないとされている)した菅首相の言動をきっかけに、注入が中断されたという指摘があり、マスコミや自民党をはじめとする野党が国会で追及していた。

しかし、東電の調査で、同原発の吉田昌郎所長の独断で注入を停止していなかったことが判明。吉田所長は「国際原子力機関(IAEA)の調査もあり、正しい事実に基づき評価が行われるべきだと考えた」と説明したという。

この説明で、海水注入という放射能を封じ込める初動対応を妨げたのは誰かという「犯人探し」の意味は薄れるが、逆に、問題にかかわる人々の「無責任ぶり」が浮き彫りになった。

まず首相官邸だが、関係者の話によると、すでに海水注入が始まっていた段階で、官邸サイドから東電側に「海水注入を一旦中止して、菅首相の指示によって注入を開始したことにしたい」旨の要請があったという。これが首相本人の指示か否かは分からないが、この話が事実であれば、官邸は放射能放出の危険性より、政治主導の演出を優先したことになる。

少なくとも、事故当初に官邸側がしきりに流していた「『原子炉が使い物にならなくなる』と抵抗する東電に、首相が海水注入を促した」という説明は完全に破綻している。(参考:27日付産経新聞)

一方、東電側は、海水注入の停止を決めた(※実際は停止せず)理由について、「首相の了解がないと注入ができないという官邸の『雰囲気』」を東電幹部が本店に伝えてきたことを挙げている。だが当時、東電側は一刻も早い海水注入が必要と考えていたのだから、注入停止の判断は、これまた放射能放出の危険性より、官邸のご機嫌とりを優先したことになる。

また、吉田所長についても、東電本店の指示を無視したことは誰よりも国民の安全を考えた英断と言えるかもしれないが、その判断を正しいと信じるならば、停止指示があった時点で反論するか、もしくは、もっと早い段階で自ら堂々と説明すべきだった。そうすれば、マスコミや国会の余計な混乱は避けられたはずだ。(※関係者の話では、この所長の訂正発言さえも、政府の圧力によって言わされている可能性が捨てきれないという)

注入をめぐる問題ではまだまだ不明確なことが多く、今後真実が明らかにされることを期待したいが、最大の問題は、原発事故という国家的な危機の中で、当事者たちが国民の安全よりも自らの保身や責任回避を優先させたことにある。(格)

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