政府は「マイナンバーカードを活用したデジタルサービス」を前のめりに推進しており、医療分野にも、その波が押し寄せている。

政府は、保険医療機関や薬局に対し、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるシステム「オンライン資格確認」の導入について、2023年4月から原則義務化するという方針を示している(6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2022)」)。

「オンライン資格確認」とは、マイナンバーカード(マイナ保険証)のICチップや健康保険証の記号番号を用いて、オンラインで資格情報を確認すること。このシステムを活用するには、医療機関や薬局の窓口に「顔認証付きカードリーダー」を設置する必要がある。

政府は、現在の健康保険証を廃止して、昨年10月から運用が始まった「マイナ保険証」に一本化していく方針で、その流れの一環として、医療機関に顔認証付きカードリーダー設置を促してきた。しかし、マイナ保険証が使える医療機関は全国で約2割に留まるため、機器導入の「原則義務化」を打ち出したのだ。

「保健医療機関・薬局の指定の取り消し事由となりうる」と言及

そうした中、厚労省と日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会は8月24日、全ての医療機関・薬局を対象に、「オンライン資格確認の原則義務化」に向けたオンライン説明会を実施した。

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「オンライン資格確認の原則義務化」に向けたオンライン合同説明会のスライド(画像はYouTubeよりキャプチャー)。

医療機関や薬局の窓口に設置した顔認証付きカードリーダーで、マイナンバーカード(マイナ保険証)の顔写真データと、窓口で撮影した本人の顔写真を照合し、本人確認をしたのち、患者の同意を得ることで、医療機関や薬局がシステムに事前に登録された患者の特定検診結果や薬剤情報を確認できるようになるという説明がなされた(今後、透析や医療機関名、手術情報なども確認できるようになる)。

「安心・安全で質の高い医療の提供」、「被保険者の迅速な資格確認」、「事務の効率化」などのメリットを強調した上で、「顔認証付きカードリーダー未申し込みの方は、速やかに『顔認証付きカードリーダー』の申し込みをお願いします」というスライドを提示。来年4月から導入が原則として義務化されることに加え、来年3月31日までに導入を完了することが補助金支給の条件だと説明した。

また、「オンライン資格確認を導入しない場合、(保健機関・薬局の責務を規定する)療養担当規則の違反になるということだが、どのような結果になるのか」という現場からの質問に対して、厚労省の担当者は、療養担当規則に違反をするということは、「保健医療機関・薬局の指定の取り消し事由となりうる」ものなので、それくらい重要なこととして導入をしていただきたいと答えていた。

「これは洗脳ではないか」という現場の声

現場の医師たちからは「医療現場に義務化までして導入するシステムではない」という声が上がっている。

三重県で歯科医院を営む安藤優香さん(仮名)は、オンライン合同説明会に参加したものの、「『安心・安全で質の高い医療』、『DXの基盤になる』などといった言葉が繰り返されていたが、これは洗脳ではないかと思った」と語る。

そもそも、「デジタル化が本当に最高の医療につながるのか」と疑問を持っているという。安藤さんは「最適な治療法は、患者さん一人ひとりによって異なるので、『デジタル化で服薬歴や手術歴などの情報を迅速に知ることができるから、絶対によい治療ができる』と言えるわけではない。また病歴などの個人情報を知られたくない方も多い」と指摘。

そして、「9月中に申請すると導入の必要経費を10分の10(全て)返金する、という誘導に乗ろうとは思わないが、『機器を導入しなければ、保健医療機関の指定の取り消しにつながる恐れがある』と"脅し"をかけられれば、導入せざるを得ない」と語った。安藤さんの友人の開業医たちも機器導入には賛同していないものの、中には「面倒だから導入した」という医師もいるという。

9月中に手続きを済ませなければ、来年3月末までの導入完了に間に合わない可能性があるため、安藤さんは不本意ながら少しずつ準備を進めているという。

約8割の医師や歯科医師が原則義務化に反対

「本当は機器の導入をしたくない」と考えている医師は、日本全国に数多くいると見られる。

全国の医師・歯科医師10万7千人で構成する医療団体「全国保険医団体連合会(保団連)」のホームページには、医療や歯科医師から、「保険証の廃止やオンラインの義務化など、国が勝手に決める事ではないと思う。この国は社会主義国家にでもなったのだろうか」「オンライン資格確認の金銭面、事務の負担が大きすぎる。当初の話と全く違う。義務化には断固反対!」「選択の自由を認めるべき」など、導入義務化に反対する声が多数寄せられている。

保団連の調査によると、オンライン資格確認システム導入の原則義務化には78%が反対、保険証の原則廃止には75%が反対しているという(8月12~29日の保団連情報サービスメルマガ登録会員へのアンケート)。

保団連は、医療現場での無用なトラブルや事務負担増が懸念されるなどの理由から、来年4月からのシステム導入義務化を「撤回」するよう、政府に強く求めている。また医療現場でのマイナンバーカードの取り扱いも避けるべきだとしている。

政府はなし崩し的にマイナンバー制の導入を進めているが、この強引さでは全体主義と言われても仕方がない。マイナンバー制が進んでいき、政府が全ての個人情報を一元監視することになれば、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に描かれたような監視社会に近づいていく恐れがある。このことにもっと危機感を抱くべきだろう。

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