《ニュース》

米バイデン政権はこのほど、トランプ前政権下で進んでいたメキシコとの国境沿いにおける壁建設の再開を承認しました。バイデン大統領が大統領選挙から展開してきた壁建設への猛烈な批判を翻す判断に、非難の声が上がっています。

《詳細》

バイデン政権は7月28日、米アリゾナ州ユマ近郊に位置するメキシコ国境沿いの壁について、隙間を埋める工事を許可しました。

この工事に関する資金を拠出することになっている国土安全保障省(DHS)の発表によると、不法入国の最も多い通路の一つである4つの大きな隙間を埋めるよう、壁を建設するとのこと。DHSは壁の建設によって、"不法入国を試みる人々が転落や溺死で命を落とすケースを防げる"としています。

しかしもともと、トランプ前大統領が進めていた壁建設計画を、「人種差別的」であるとして撤回したのはバイデン氏です。バイデン氏は大統領選中、トランプ氏が掲げる計画に対して、「人種差別的(racist)」「排外主義(xenophobic)」だと強く批判。2020年8月のインタビューでは、「私の政権下では、1フィートたりとも壁建設が新たに行われることはない」と明言していました。

自身が強く反対してきた壁建設を再開したバイデン氏に対し、「バイデン氏は壁を建てているけど人種差別主義者じゃないの? 人種差別だったのはトランプだけ?」など、皮肉る声が上がっています。

この手のひら返しのような決定をめぐって、ホワイトハウスのジャンピエール報道官も苦しい言い訳を強いられています。

FOXニュースの記者ピーター・ドーシー氏が「バイデン政権はなぜアリゾナで壁を建設しているのでしょうか」と質問すると、報道官は「我々は壁を完成させていません。我々は前政権が残した混乱を綺麗にしているだけです」と回答。

その後もドーシー氏が、「バイデン氏は自身の政権では1フィートも壁を建てることはないと言っていましたね」「これは人種差別ですか」などと質問を投げかけるも、報道官は「壁を完成させてはいません。前政権が残した混乱を綺麗にしているだけです」「我々は命を救おうとしているのです」と同様の発言を繰り返すのみでした。

壁建設が再開されることになったアリゾナ州を地盤とする民主党上院議員のマーク・ケリー氏は、不法移民急増と治安悪化によって、共和党陣営や有権者からの批判に晒(さら)されており、今秋の中間選挙では再選が危ぶまれています。

この度のバイデン政権による決定は、ケリー議員の再選をテコ入れすると共に、国内問題に対処する姿勢を有権者に見せることで、中間選挙前に支持率を回復したい狙いが窺えます。

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