《本記事のポイント》
- 「非接触社会」は労働人口を減少させ、社会に貢献する機会を奪う
- インフレはバイデン政権による「人災」
- 非接触社会は勤勉の精神を死滅させる
注目すべき研究成果がアメリカで発表された。
アメリカのフーバー研究所のシニア・フェローであるスティーブン・デーヴィス氏による「ソーシャル・ディスタンス(「感染拡大を防ぐために物理的な距離を取るという意味」)の長期的な影響についての研究である。
「非接触社会」は労働人口を減少させる
デーヴィス氏の研究の概要をまとめるとこうなる。
- 新型コロナウィルスの流行が収まっても、流行時と同じくソーシャル・ディスタンスを取る人々が全人口の10%はいる。
- それより多くの人々が、かつてやっていたような行動、つまり混みあったエレベーターや地下鉄、電車を避けている。
- ソーシャル・ディスタンスを続けたいという人々は、今後、労働人口から抜け落ちる可能性が高い。
- 中にはリモート・ワークを見つけられる人もいるが、大方はそうではない。そうした人々の中には家計を補助的に支えていた人も多く、彼らは働くのを減らし、所得が減るのを甘んじる人も多い。
- 本来であれば、あと3年から4年は働く希望を持っていた人々も、感染への不安から早く退職するケースもある。
- このことは経済学上、2つの点で問題である。
- マクロ的には、感染を恐れて働くのをやめる人が増えるほど、労働市場がひっ迫する。それにより賃金上昇に拍車がかかる。そうすると米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレを下げようとしても、景気後退を引き起こさずにソフトランディングさせるのが難しくなる。
- もう一つは、当然のことながら、働き手が減るほど財やサービスを提供する人が減るということだ。
- 長期的な影響はそれだけにとどまらない。働くことで社会に貢献する、友人や協力者をつくる、伴侶を見つけることもある。一時的に仕事から離れたとしても、仕事に戻ってほしいと思っている。
インフレはバイデン政権による「人災」
アメリカでは、消費者物価が40年ぶりの伸びを記録。ガソリン価格は3月に過去最高を記録したが、エネルギー価格の高騰のみならず、人々が「職場に復帰しない」ことも賃金上昇に拍車をかける。
FRBは利上げを決定し、引き締めても景気の後退を招かないよう、インフレを鈍化させる「ソフトランディング」を目指す。しかし地政学的な影響もあり、ソフトランディングできるかどうかの先行きは怪しい。
問題に拍車をかけるのは、バイデン政権は自らの政策がエネルギーや労働市場のひっ迫を招いていることに気付いていないことだ。
与党民主党のチャック・シューマー上院院内総務は4月28日、「インフレ率を下げる唯一の方法は、トランプ減税を撤廃し増税することだ」と息巻いている。
感染を防ぐために、予定よりも早くリタイアする。所得が減ってもいいから、人と接触する仕事はしたくない。「非接触社会」は、人が働くインセンティブを見事に低下させた。それに加えて増税すれば、働くインセンティブはさらに減り、労働需給をひっ迫させてしまう。
要するに、感染症対策としての非接触社会の浸透は、10人に1人もの人々に「働かない方がよい」と思わせてしまっている。つまり離職させる圧力となって働く愚策なのだ。
しかも、インフレという副作用をもたらした。アメリカのインフレはバイデン政権による「人災」と言える。
日本の世界的影響力を低下させた「再分配」政策
非接触社会の長期化は日本でも問題である。
イベント会場などに行けばわかるだろう。人の入りはいつもの半分。
「不要不急の外出はお控えください」「電車の中での会話はお控えください」。コロナ禍で、そんな行政側の「自粛要請」が、いつの間にか国民の潜在意識に浸透し、国民の経済活動を委縮させた。
だが「非接触」を長期的に続ければ、供給も需要も減り、経済は縮小してしまう。アメリカではそれが物価上昇に現れ、FRBは金利を上げざるを得ない状況に追い込まれている。
一方、膨大な政府債務の返済義務を抱える日本政府にとって、金利を上げる選択肢はほぼない。あらゆる面で欧米追随型の日本政府だが、欧米に追従できるほど経済基盤が盤石ではないのである。
金融緩和を続けざるを得ない日本経済は、円安に加えて、エネルギー価格の上昇によるダブルパンチをくらっており、輸入価格が膨らみ経常収支悪化に拍車がかかる。
もとより国内総生産(GDP)成長率が下がる日本から投資マネーは逃避し始めている。
政治家はあと数百兆円ほど借金する余地があると見て、お金をばら撒いてきた。それに甘え、GDP成長率を上げるための政策を採ってこなかった。このツケは大きい。この状態で台湾や朝鮮半島、中東などで有事が起きれば、「円」を回避する動きは加速し、通貨安からさらに日本経済は打撃を受ける。安全保障があってこその経済なのだ。
世界に占める日本のGDPのシェアは、30年前の18%から3分の1の6%程度に低下した。経済パワーの低下で、日本の世界における存在感が3分の1になったとも言い換えることができる。
非接触社会は勤勉の精神を死滅させる
抜本的には再分配主義をやめ、経済成長路線を採る。それには感染症対策としてのソーシャル・ディスタンスを社会規範としないことだ。
レーガン・トランプ両政権の経済顧問を務めたラッファー博士が、新刊『「大きな政府」は国を滅ぼす アメリカを2度復活させた繁栄の経済学』のまえがきで述べているように、「危機の時ほど、自由市場が必要とされることはないのである」(関連書籍参照)。
そもそも非接触社会は「仕事をしないこと」の奨励であり、勤勉の精神を死滅させる。その上、デーヴィス氏が述べているように、国民の社会貢献の機会や、友人や協力者を見つけ、共同で事業を起こすなど、共同体を育む力まで奪ってしまう。
そもそも「働かないことにお金を配る」分配は、「貧困化」しかもたらさないことを自覚すべきだろう。
再分配主義で政府支出を増や続けた結果、日本の一人当たりのGDPは、台湾や香港、シンガポールに抜かれてしまった。
ばら撒いている場合ではない。減税、規制緩和、そして国民が付加価値を生む幸福の生産者となった上で、GDP成長率を上げてインフレ目標を達成するという順当な発展を目指すべきである。
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