「1日24時間」は万人に共通なのに、大きな仕事をする人もいれば、なぜかいつも時間に追われてばかりで成果が出せない人もいる。人材コンサルタントの田中和彦氏はリクルートで4誌の編集長を兼任した経験などをもとに、『課長の時間術』など、仕事術に関する著作を多数持つ。同氏に、中間管理職の時間術について聞いた(2014年4月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。

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人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサー

田中 和彦


(たなか・かずひこ)
1958年、大分県生まれ。一橋大学卒業後、リクルートに入社。転職情報誌『週刊ビーイング』『就職ジャーナル』など4誌の編集長を歴任。映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役などを経て、株式会社プラネットファイブ代表取締役。"今までに2万人以上の面接を行ってきた"人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。『課長の時間術』(日本実業出版社)など著書多数。

4つの雑誌の編集長を兼任していたときが、一番忙しかったですね。部下の数も会議の数も4倍になり、週刊誌と月刊誌が別のサイクルで動いていて、しかも、イベントのプロデュースや社内研修の講師もしていました。

苦肉の策として、打ち合わせなどを1時間ではなく、15分単位で区切るようにしました。たとえば会議を4時から4時45分までに設定すると、次の約束を5時から入れることができます。相談事にも「15分しかないけどいい?」と言って対応すれば、意外に時間内に済むことが多かった。この方法でかなり時間を有効に使うことができました。

また、複数の仕事を平行して進めるわけですが、その一瞬一瞬はひとつのことに集中します。そのために「忘れる工夫」をしていました。気になることはすべてメモしておくんです。そうしないと「さっき大事なことを考えていたけど何だっけ……」と、思い出すのに時間がかかりますし、忘れないようにしようとすると集中できず、目の前の仕事が進まないからです。

メモを使って頭を空っぽにすると、アイデアが出やすくなるというメリットもあります。私は、TO‐DOリスト(*)を、朝ではなく、寝る前に書いているのですが、そうして頭を空にしておくと、夜中にふっとアイデアを思いつくことがあります。それを暗闇でも書きとめられるように、枕元には大きな紙とペンを置いています。

(*)やるべきことを箇条書きにしたリスト。

「自分でやった方が速い病」にかかっていませんか?

この時期には、部下に仕事を任せる能力も磨かれました。私はどちらかというと、「自分でやった方が速い病」なんです。たとえば部下に表作成を頼むと、「線の太さが……」といった細かいことが気になる。かといって自分でやってしまっては部下は成長しません。人に任せるには教える根気と我慢が必要です。

「もうちょっと部下ができるようになってから任せます」と言う人も多いですが、逆です。任せるからできるようになる。ミスやトラブルもあるかもしれないけれども、それも含めて任せるということです。

任せるときのポイントは、作業を任せるのではなく、目的や背景を伝えて、責任を持たせること。それがないと「やらされ仕事」になってしまいます。

優先順位を伝えることも大切です。部下は意外に、重要度が低い仕事に時間をかけていることが多い。パレートの法則といって、成果の8割を生むのは、重要度の高い2割の仕事です。その2割に集中させることも上司の役目だと思います。

上司のスケジュールを把握する

中間管理職の場合、上司の仕事を先読みすることも、時間術のひとつです。

上司から急に、「人を紹介したい」とか「役員会議の資料を作ってくれ」と言われ、私もずいぶん振り回されました。これを防ぐにはどうすればいいかと考えて、月曜日の朝、上司の1週間のスケジュールを把握して、自分の手帳に書いておくようにしました。そうすると、今日は昼休みに声がかかるかもしれないと予想がつく。これは結構当たりましたよ。

実は、上司の動きを先読みしたり、役員会議でどんな資料が必要になるかなどを考えることは、自分より上の立場の視点で物事を考える勉強にもなります。

メールも書類もその場で処理

判断を速くすることも、訓練すればできるようになります。

私はそれまで、返信が必要なメールは「あとで返事しよう」と保管フォルダに入れ、書類もすぐには決裁せずに保留箱に入れておくタイプでした。それが大量に溜まってしまい、先輩に相談すると、「読んだメールはすぐ返す。書類も読んだらすぐ決裁する。そのとき処理する時間がないなら読まない」というアドバイスをもらいました。

もちろん件名などを見て緊急度は把握しますが、それでも「受け取ってすぐ読まなくて大丈夫かな」という怖さはありました。でもそこをぐっと堪えて、保留箱をテープでふさぎ、アドバイスの通りに実践しました。

やってみて分かったのが、じっくり考えた方がいい判断ができるように思うけれども、実はそうでもないということです。時間をかけても判断の良し悪しはあまり変わらないんです。判断を速くしようと心がけているうちに、速くて正確な判断ができるようになっていきました。

忙しい立場に身を置いたからこそ、限られた時間をうまく使う方法が身についたのです。(談)

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