本誌2022年2月号では、「激震間近、中国経済 逃げ遅れるな、日本企業!」と題した特集において、中国の不動産危機の背景や中国経済の今後の見通しに迫りました。

本欄では、アメリカに亡命した中国人の政治経済学者に、恒大集団の債務不履行の背景にある、「中国政府の意図」について伺いました。後編で取り上げるのは、中国政府が進めてきた「企業の整理・再編」についてです。


企業整理を進めて何が起きるのか、中国政府も分かっていない


政治経済学者

何 清漣

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(ホー・チンリェン)1956年、中国・湖南省生まれ。上海復旦大学で経済学修士を取得。深セン法制報で記者生活を送り、中国社会科学院の特約研究員を務めた。政治経済学の視点から共産党統治の構造的病癖と腐敗の根源を暴く言論を貫き、2001年にアメリカに亡命。現在はボイス・オブ・アメリカのコラムニストとして精力的に発信を継続している。著書に『中国現代化の落とし穴』(草思社)などがあり、共著に『中国─とっくにクライシス、なのに崩壊しない"紅い帝国"のカラクリ』(ワニ・プラス)がある。

──中国の不動産分野で債務危機が相次ぐと、その影響は不動産以外の業界にも波及することが予想されますが、どのようにお考えでしょうか。

中国経済のバブル崩壊は、当時の日本のような突発的なものとはならず、緩やかにしぼんでいくことになるでしょう。このプロセスはとっくに始まっており、中国政府の意図に沿ったものです。

不動産業は中国経済のリーディング産業であり、中国金融業への影響は最も大きいものです。加えて過去には、地方財政が土地売却収入に依存していることへの影響を考慮し、中国政府は痛みを伴う手段を遅々として講じず、金融政策を通じて絶えず「引き締め-緩和」を実施するにとどまりました。今回の恒大ショックは対外債務1800億ドル以上に波及したため、特に注目を浴びることとなりました。

中国政府の基準で企業整理が始まっている

米ゴールドマン・サックスグループは今年半ば、中国の経済立て直しを紹介するレポートを発表しました。それによると、中国の監督管理機関は2020年11月以降、反独占、金融、データセキュリティ、社会的平等の分野に係わる整理改革措置を、毎週少なくとも1つ採用しており、すでに採用した措置は50以上となっています。

次々と整理改革されたのは、タクシー配車サービスの「滴滴」や、学習塾・予備校などの教育産業、料理宅配のプラットフォーム、ゲーム産業、医療美容業界であり、中国政府当局がいわゆる「野蛮な成長」とする不健全さをいずれも内在しています。これらの業界は収益を上げましたが、社会に多くの問題を残しました。

これらの業界はすべてサービス業(擬制経済)に属し、それがなくなると国民経済がすぐ成り立たなくなるようなサービス産業に属しているわけではありません。これらはすべて民間企業で就業人数が多いため、世論はこの整理に批判的です。しかし、負債比率は非常に低いため、債務危機を引き起こすことはありません。

私はかつて、中国政府が本国経済の戦略的な調整を行うために、これらの企業の段階的な整理改革措置を行っていると指摘しました。

一つ目は、中国経済において過去15年間、「実を脱し虚に向かっ」ていたキャピタルフローを、「虚を脱して実に向かわ」せ、キャピタルフローを実体企業に導くよう是正しなければならないということです。

二つ目は、中国経済の公有と私有の比重を改め、国有資本の国内経済における比率を拡大しなければならないためです。

この企業の整理改革プロセスは非常に複雑で、中国経済に極めて大きな衝撃を与えるでしょう。中国政府も実のところ、最終的にどのような累積効果がもたらされるのかを知っているわけでなく、米中競争(産業)のための準備を行っているだけなのです。(了)

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