《本記事のポイント》
- トクヴィルは、アメリカはローマ帝国のように世界を支配すると予言
- アダム・スミスの『国富論』が実現
- 一人当たりのGDPがいち早く急増したアメリカ
バイデン米政権は、早々にも連邦レベルで最低賃金を15ドルに引き上げることを予定するなど"社会主義的"な政策を実行に移していく構えだ。コロナ対策や環境投資に全部で4兆ドル支出する予定だが、その支出はいずれ大増税になって跳ね返ってくることが予想されるため、米経済は持続的成長が可能かどうかが問われ始めている。
経済的にはオバマ政権時のような社会主義的政策が取られ、衰退の兆しを感じさせるアメリカだが、それは国是から逸脱しつつあることが大きな要因かもしれない。
神の意志に従って共同体を創ると決意
アメリカの建国は、メイフラワー号などでイギリスから逃亡してきた入植者たちが、「個人と神との契約にもとづき、神の意志にしたがって共同体を創る約束を、お互いに交わした」ことから始まる。これがかの有名な「メイフラワーの盟約」で、プリマスに上陸する直前に、ピルグリムたちが船内で結んだものだ。
ピルグリム・ファーザーズたちは、弾圧が激しくなったイギリスから宗教活動の自由を求めて、母国を離れ新天地に理想郷を築こうとした人々であった。現在数多くの信仰者たちが香港からイギリスやオーストラリア、アメリカ等に逃亡しているが、その姿と重ね合わせると理解しやすい。
彼らは「神の意志に従って共同体を創る」約束を交わした。そこにあったのは宗教国家建設の情熱で、失敗すれば神から見放されたことになるという、神との契約意識に根付いた信仰観だ。
またプロテスタントの入植者たちにとって、「富めるものになるということそのものが、魂の救済の証」だった。物質面・経済面でも、世界の範たる「丘の上の町」でなければならず、そうでなければ原罪がやってくるという、ある種の「強迫神経症的」な信仰心を持っていた彼らは、厳しい戒律を課しながら神の栄光を実現することに力を注いだのである。
その後、18世紀半ばに独立戦争が起き、アメリカの"国のかたち"は独立宣言に記されることになる。
その中で「生命、自由、幸福の追求」が自然法と自然の神によって与えられていることが明記された。「幸福の追求」で担保された「財産権」とは、平たく言えば「金にならないアメリカなどアメリカではない」ということだ。
トクヴィルは、アメリカはローマ帝国のように世界を支配すると予言
そんなアメリカの商業の精神を見抜いたのはフランスの政治家で思想家のアレクシス・ド・トクヴィルだった。
トクヴィルは『アメリカの民主主義』で、アメリカ繁栄の基は商業にあるとし、それを支えるアメリカ人の美徳として「勇気」を挙げていた。
それは荒波を乗り越えて進む勇気、苦難を耐え忍ぶ勇気、財産を失おうと努力を奮い起こして、再起する勇気である。
アメリカ人がこうした精神で商業を営む限り、いつの日か世界一の海洋強国となり、ローマが世界を征服したように、世界を支配するようになるだろうと、トクヴィルは予言している。
この予言は的中し、アメリカは世界の覇権国家、「20世紀のローマ帝国」になったと言える。
アダム・スミスの『国富論』が実現
しかも面白いのは、独立宣言が起草された1776年に、イギリスでアダム・スミスの『国富論』が発刊されたことである。神の摂理といってもいいのかもしれない。
建国の父のジェームズ・マディソン、アレクサンダー・ハミルトン、トーマス・ジェファソンらは、スミスの『国富論』を熟読していた。
スミスは『国富論』の中で、それぞれの人が"利己心"に基づいて行動しているとしても、実際にそれは問題ではなく、結果的には自由市場で「神の見えざる手」が働いて、全体の調和がとれるのだと主張した。
大川隆法・幸福の科学総裁が著書『政治の理想について』で下記のように解説されているように、それは非道徳的な行為のススメではない。
「それは、『それぞれの人が、自分たちの智慧、才覚を最大限に発揮して経済活動をするほうが、誰か特定の人が決めた"経済法則"で国家運営をするよりも、うまくいく』ということを言っているのです。
つまり、『社会主義型の運営よりも、それぞれの人が企業家精神を発揮して自由に活動したほうが結果的にはうまくいく』という、非常に民主主義的な考え方なのです。
したがって、「アダム・スミスの考え方は間違っている」と言うならば、それは、「民主主義は間違っている。民主主義より独裁制のほうが効率がよい」と言っているのと同じです。
しかし、「経済を一元管理できる」と思うことは大きな間違いなのです」(『政治の理想について』第3章「政治経済学入門」)
建国の父らは、スミスの思想に共感し、個々人のインセンティブが喚起されるような、そんな民主主義的経済体制を善しとしたのである。
一人当たりのGDPがいち早く急増したアメリカ
「金になるアメリカ」を是とした建国の父たちの理想は、その後、企業家精神が開花することで実現する。
それを示すのが、イギリスの経済学者アンガス・マディソンが作成した以下の有名な図である。
デレック・トンプソン氏のThe Atlanticの記事を元に編集部で作成
この図を見ると、アメリカの1人当たりの国内総生産が、1800年から急増していることが如実に分かる。誰か特定の貴族階級が生産性を上げたのではなく、国民一人ひとりの生産性が高まった結果、富の総量が増えたと言える。
同時期の日本は江戸時代。身分制によって職業を固定し、一握りの武士による寡頭支配を続けていたこともあり、1人当たりの国内総生産は低迷している。
急成長を遂げていた頃、アメリカは「小さい政府」そのもので、連邦政府による経済への介入の度合いは極めて小さかった。連邦政府の政府支出が増え始めたのは、20世紀初頭に入り、ウィルソンやルーズベルトなどリベラルな大統領が登場し始めてからである。
「金になるアメリカ」は、信仰心と個々人のやる気を大切にする民主主義的で自由主義的な経済体制から生まれた。
バイデン氏のような地域差を考慮せず、最低賃金を全国で一律に決められると考えるやり方は、経済を一元管理できるとする思想そのもので、国の介入を最小限にとどめるべきだと考えていた建国の理想から遠く離れてしまっている。
20世紀にローマ帝国のごとく覇権国家となったアメリカは、今後どこまで衰退していくのか──。国は何度でも何度でも原点に立ち返らなければ衰退する。建国の原点にあった理想を取り戻さなければならないのは言うまでもない。(長華子)
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