《本記事のポイント》

  • 中韓高官会談で、冷え込んでいた関係が雪解け!?
  • 中国は"四面楚歌"状況を韓国から打破したい
  • 破綻しかけた経済・対日関係・支持率を回復させるため……

中国担当外交トップの楊潔チ・国務委員が今夏、韓国を訪問し、徐薫国家安保室長と釜山で会談を行った。中国政府高官の訪韓は、2019年末に中国で「新型コロナウィルス」の感染が確認され以来、初めてである。

そもそも中韓関係は、韓国が2016年にTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)を導入して以降、冷え込んでいた。

韓国から"四面楚歌"の状況を打破する

しかし習近平政権は今回、"四面楚歌"の状況を打破しようと、韓国へ"特使"を派遣したのではないだろうか。

中国は、「新型コロナ」が世界的に蔓延する中、周囲の国々に対して強硬策で臨む「戦狼外交」を展開した。そのため、我が国をはじめとする周辺国・関係国などは反発を強め、中国は孤立しつつある。特に米トランプ政権は、少なくとも2つの空母打撃群を南シナ海へ派遣し、対中戦争も辞さない構えを見せている。

それに驚いた中国共産党は、この夏の北戴河会議で、今後、外国に対し「ソフト戦術」の採用を決定したとも言われている。その"籠絡"対象の筆頭に選ばれたのが、韓国だろう。

楊・徐両氏の会談では、「新型コロナ」の感染拡大が落ち着いたら、習近平国家主席の訪韓を調整することで合意したという。

本来ならば今年4月、習近平主席が訪日後、韓国へ立ち寄る予定だった。しかし「新型コロナ」の蔓延で習主席の来日は事実上キャンセルされた。同時に、主席の韓国訪問も流れていた。

破綻しかけた経済・対日関係・支持率を回復させるため……

意見交換された内容からも、接近する両国の思惑が透けて見える。

第1に、両氏は、中韓貿易に関して意見交換をしたという。

中韓は日米などと比べて貿易依存度が高い。そのため、昨今の「新型コロナ」により受けたダメージはかなり大きいはずだ。そこで、中韓自由貿易協定(FTA)第2段階交渉を加速化させるという。

第2に両氏は、日中韓の"3ヶ国首脳会談"を年内に開くことで一致したという。

現在、日中関係及び日韓関係は悪化の一途を辿る。そこで中韓としては、"3ヶ国首脳会談"という枠組みを使って、対日関係の改善を模索しているのではないだろうか。

さらに"両者"にとって重要なのが、「文在寅政権の安定」である。

近ごろ、文在寅政権の支持率が下降している。例えば、韓国の世論調査会社「リアルメーター」が実施した今年8月第1週(8月3日~7日)の調査によれば、文在寅大統領の支持率は43.9%と前週よりも2.5ポイント下がった。逆に「支持しない」は3.0ポイントアップして52.4%となっている。「不支持」と「支持」の差は前週の3.0ポイントから8.5ポイントに広がった。

中国共産党にとっては、「親米派」の多い野党よりも、「親北派」である文在寅政権の方が好ましい。そこで、習主席訪韓で文政権に外交得点を稼いでもらい、次の大統領選挙でも与党に勝利してもらう算段ではないだろうか。

楊・徐両氏の会談では、北朝鮮についても触れたという。

よく知られているように、北朝鮮は恒常的に食糧難で、厳しい経済状況下にある。直近では、水害に遭い、"人道支援"という名の経済援助が必要となっている。しかし面子問題があるので、北朝鮮が直接、韓国に支援を依頼するのは具合が悪い。そこで、中国が北に代わって韓国へ依頼することで、韓国から北への"人道支援"がスムーズに進むのではないだろうか。

両国の接近は、"崖っぷち"同士のウィン・ウィン関係とでも言えよう。

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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