「米中戦争」の可能性が、一部でささやかれ始めている。
7月には米中双方が、総領事館を1つずつ閉鎖する事態となった。そんななか、北京市内に「空襲警報」のポスターが掲示され、話題になった。南シナ海での緊張関係も激化し、中国の尖閣諸島沖での動きも活発化している。
しかし客観的に見て、中国に米国に挑戦できる国力があるとは、とうてい思えない。
習主席が飛びついた「中国>米国」説
習近平政権はトウ小平の「韜光養晦」(能ある鷹は爪を隠す)政策を捨て、世界制覇に乗り出した。これは、「中国の夢」を掲げて登場した習近平主席の"個人的野望"であった。しかしそのためには、米国という高い壁を乗り越えなければならない。
ちょうどその時、清華大学の胡鞍鋼という学者が習主席の"野望"を裏書きした。胡は、2010年代前半から半ばにかけて、すでに中国は経済的に米国を凌駕したと主張した。驚くべきことに習主席は、この説を信じたのである。そし、胡の主張に従って世界制覇に乗り出した。
科学も経済もはるか後れ……
ところが実力は伴っていない。
周知の通り、中国は他国、特に米国の技術を盗取するのに熱心である。なぜなら、自国におけるAIをはじめとする先端技術産出能力に、疑問符が付くからである。第2次大戦後、中華人民共和国籍の中国人で、自然科学系のノーベル賞を獲得したのは、屠ユウユウ氏たった1人しかいない。ごく一部の特定分野で中国が米国を凌駕することは可能だが、総合的には勝てない。
また周知の如く、中国では最近、経済が壊滅状態に陥っている。中国経済の3大エンジン「投資・消費・輸出」は近年、明らかにほぼ右肩下がりとなっていた。
その大きな原因は、習政権が「改革・開放」をやめ、「毛沢東型」の社会主義路線に回帰したことだろう。また、北京政府が為替市場・株式市場・不動産市場に、過剰な介入をしていることも大きい。すでに中国市場には大きな"歪み"が生じていると考えられる。特に不動産バブルは、いつ弾けてもおかしくない状態にある。
目下、中国では新型コロナウィルスの第2波・第3波が襲来している。長江流域では洪水が頻発し、三峡ダム決壊の危機すら叫ばれている。加えて、バッタの「蝗害」被害等、次々と厄災が襲い掛かっている。
米国と衝突できる力はない
そんななか、共産党内は「習派」と「反習派」(李克強首相が中心)との間で、熾烈な権力闘争が行われ、バラバラである。
習近平政権が、「戦狼外交」(米国・日本・インド等の他国や、南シナ海および台湾・香港に対する強硬路線)を採っているのは、党内の不和を隠す目的があるだろう。あるいは、外に敵を作る手法で党内の団結を促しているのかもしれない。
しかし、中国が米国と衝突できるような状況とは到底思えない。北京の指導部が、冷静であることを祈りたい。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ザ・リバティ』2020年9月号
幸福の科学出版
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