2020年9月号記事
Divine Economics
サプライサイド経済学の父 ラッファー博士
70年代の不況と雌伏の時
Part 02
アメリカは1970年代に不況に見舞われる。その中でラッファー博士は、
時の政権にサプライサイド経済学の売り込みに孤軍奮闘する。
70年代をどう生き抜いたのか、雌伏の時について語ってもらった。
(聞き手 長華子)
トランプ大統領の経済顧問
アーサー・B.ラッファー
プロフィール
1940年生まれ。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で博士号を取得。経済調査とコンサルティングのラッファー・アソシエーション会長。サプライサイド経済学の父。レーガノミクス、トランポノミクスを導いた。大統領選挙中よりトランプ氏の経済政策顧問を務める。著書に『増税が国を滅ぼす』(日経BP社)、『トランポノミクス』(幸福の科学出版)などがある。
──前号では、スタンフォード大学での博士号取得時に、「経済とはインセンティブの問題だ」と気づいたと語られました。
ラッファー氏(以下、ラ): もう一つ大きな発見があります。当時私は、シカゴ大学に赴任し、教鞭をとっていました。
住んでいたシカゴの南部は黒人ばかりです。貧困が街を覆い、絶望に打ちひしがれる人々を見て、私は涙を禁じえませんでした。そして「経済学者として、彼らの生活をよくするために何をしてあげられるのか」を自らに問いました。
そこで72年に発表したのが「エンタープライズ・ゾーン」という構想です。当初の構想はとてもシンプルです。
(1)労使共に給与税(*1)を免除する。
(2)5万ドルまで所得税を免除する。
たとえばフィラデルフィアの課税区分では、5万6千ドルの所得のある人は、税金で2万7千ドル引かれるため、初めから2万9千ドル以上働かないという選択をしてしまいます。
(3)経済成長の妨げになっている規制を抜本的に見直す。
(4)若者たちの最低賃金を撤廃する。
最低賃金は、破壊的な力を持っています。彼らは教育を受ける機会がなかったため、時給15ドルに値する仕事ができない。最低賃金があると、彼らを雇う人がいないので、就労を始めることさえできません。仕事のスキルを身に着けられず、2年も3年も失業していると、他人に敵対的になります。今年の5月、アメリカで失業中の黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で死亡した事件は典型的なケースです。悲劇は起こるべくして起きたと言えます。
こんな政策を実行したら税収が減ってしまうと危惧する人もいますが、そもそもエンタープライズ・ゾーンで働いている人はほとんどいないので、その心配はご無用です。私の意図は税金をなくすことで、貧困地域に仕事を呼び込み雇用を増やす、そしてアメリカのスラム街に繁栄を創り出すことにありました。