(画像はWikipediaより)

《本記事のポイント》

  • 日鉄の呉製鉄所閉鎖で地元衝撃
  • 背景に中国製鉄メーカーの台頭
  • 中国の製鉄業は"日本製鉄がつくった"!?

日本製鉄は7日、広島県の呉製鉄所を閉鎖すると発表した。呉製鉄所は2021年9月末をめどに、高炉を2基とも休止し、23年9月末をめどに全面閉鎖する。いずれは、設備や建屋も解体し、更地にすることも明らかになった。

呉製鉄所は、戦艦大和を建造した呉海軍工廠の跡地に建設された。

日鉄は同製鉄所で働く従業員約1000人について、希望退職は募らず、配置転換などで雇用確保に努める考えを示している。

ただ、地元の呉市は、驚きを隠せない。関連会社を含めると、呉製鉄所にかかわる雇用は3000人規模。広島県内でも、過去最大級の工場休止・閉鎖となる。

さらに、取引先企業まで入れると、正規雇用だけでも約1万8千人に上るとされている。非正規雇用を入れると、影響はさらに大きい。

呉製鉄所の閉鎖の発表を受け、呉商工会議所は、落胆の談話を発表。広島県の湯崎英彦県知事は、「協力会社などが3年の間に対応策を講じられるかどうかが心配だ」と語っている。広島県と呉市は、官民で協力して対策をとる方針だ。

今回の呉製鉄所の閉鎖は、日鉄の大規模な合理化策の一環。他にも、和歌山と福岡県の八幡でも高炉を1基ずつ休止し、粗鋼生産能力を1割減らす。これにより、年間1000億円の収益改善を見込んでおり、競争力がある製鉄所を中心に生産体制を再構築する考えだ。

日鉄が7日に発表した2019年度の決算によると、最終赤字は4400億円。過去最大の赤字となる見込みであることが分かった。

日本製鉄は国内最大の鉄鋼メーカー。2018年度の粗鋼生産量は4784万トンで世界3位。国内7つの製鉄所に15基の高炉を持つ。

背景は中国メーカーの台頭

今回の呉製鉄所の閉鎖の背景にはさまざまあるが、筆頭に挙げられるのが、中国の鉄鋼メーカーの台頭だろう。

中国では、これまで経済成長を支えるために、鋼材の生産を拡大。その結果、世界の生産の約半分を中国勢が占めている。

しかし、中国の経済成長が鈍化すると、中国メーカーが生産した鋼材は海外市場に流通するようになった。そんな中、日本製鉄はシェアを奪われていった。

善意の協力のはずが……

しかしここに、皮肉な史実がある。

実は、中国最大手の製鉄会社である中国宝武鋼鉄集団有限公司は、「日本製鉄がつくった」と言っても過言ではない。

1972年、日本と中国が国交を樹立すると、後に最高指導者となるトウ小平が来日した。目玉は、新日鉄(当時)への支援要請だった。中国にも製鉄所はあったが、品質が低かったためだ。

上海宝山製鉄所が建設されたのは、トウ小平が新日本製鉄(当時)の君津製鉄所を視察したことがきっかけだった。

新日鉄は、関連メーカーを含め、延べ1万人以上の人材を中国に送り込み、中国からの研修生も受け入れた。いわば、全面協力だった。

そんな宝武鋼鉄集団は現在、世界2位の鉄鋼メーカーとなっている。

一概に言うことはできないが、中国への善意の技術供与が、自社の経営を傾かせ、国内の産業空洞化につながってしまった一つの象徴と言える。

(飯田知世)

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