《本記事のポイント》
- 米中両政府は、貿易交渉の「第1段階」に合意
- 合意したのは、貿易赤字の削減と知的財産権の保護
- 産業政策の是正や資本移動の自由化などが、これからの「本題」となる
米中両政府はこのほど、米ワシントンで貿易交渉の「第1段階」となる合意文書に署名した。
この合意によりアメリカは2月中旬にも、昨年9月に発動した第4弾の追加関税を15%から7.5%に引き下げる(2018年に実施した1~3弾の追加関税は据え置く予定)。一方の中国は、アメリカからの輸入拡大などに加え、知的財産権の保護を強化する。
中国側の一方的な譲歩に、米経済学者のスティーブン・ムーア氏は「アメリカにとって大きな勝利だ」と評価。トランプ米大統領も歓迎の意を表明した。
米中が交渉している主な課題
米中はこれまで何度も交渉を重ねてきているため、一体、何を議論しているのか分かりづらくなっている。アメリカが中国に要求する主な懸案事項を整理すると、以下のものがある。
- 対中貿易赤字の削減
- 知的財産権の保護(技術の強制移転問題など)
- 産業政策の是正(国有企業への補助金など)
- 外資への規制撤廃
- 為替の自由化(人民元の切り下げを含む)
- 資本移動の自由化
- 米中合意の履行を検証するシステムの構築
貿易赤字と知的財産権の保護について合意
今回米中が合意したいのは、貿易赤字の削減と知的財産権の保護、為替の自由化の一部となる。
中国は、アメリカから今後2年間で、2000億ドル(約22兆円)の輸入を増やす。知的財産権の保護に関しては、中国が企業秘密を悪用した企業に「刑事罰」を科すことを検討。為替では、意図的な通貨の切り下げを回避することで合意した。
外資への規制撤廃については、中国は今年1月1日、外資による中国投資の基本法となる「外商投資法」を施行して対応している。
今回合意されなかったものが「本題」
しかし、中国政府は産業振興政策「中国製造2025」の看板を下ろす様子はないばかりか、1月1日に「暗号法」を施行した問題がある。同法により中国当局は、海外企業が持つ機密情報にアクセスできる権限を有した。これについて国際社会では、「機密保護がないがしろにされる」という懸念が浮上している。
こうした中国の政策が、アメリカが要求する「中国市場の自由化」との間で、整合性がとれるのか不明となっている。
さらに、今回交渉されなかった産業政策の是正や資本移動の自由化などは、中国共産党体制の根幹に関わる問題であり、中国側が妥協できる余地はほとんどない。ナバロ米大統領補佐官(通商製造政策局長)は16日、次の交渉では中国国有企業への補助金の停止を求めるという趣旨を述べている。
つまり次回以降の交渉が、アメリカにとって本題と言える。
米中貿易戦争は、トランプ氏の大統領選が終わるまで、当面「休戦」となる見通しだ。トランプ氏が再選すれば、退任するまでに成果をあげるため、中国への強硬路線を強化し、貿易交渉は激しさを増すだろう。もちろん、中国側はそれを理解しており、同氏の任期が切れるまで忍耐することが予想される。
米中の交渉はこれからが山場を迎える。
(山本慧)
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