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《本記事のポイント》

  • 米シンクタンクが、尖閣諸島の危機をレポート
  • 中国は、物理的・非物理な手段を駆使し、いずれ尖閣諸島を占領する
  • 日本は、中国が仕掛ける「既成事実化」を拒否する戦略を立てる必要がある

米シンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」の上級研究員を務めるトシ・ヨシハラ氏が、尖閣諸島をめぐる中国の対応が激しさを増しており、危機的な状況を迎えていると警告を発している。

CSBAが8月に発表した報告書で、ヨシハラ氏は「中国の尖閣に対する威圧態勢」と題したレポートを寄稿。その中で同氏は、「中国政府が、海軍や海警(海上保安庁に相当)、漁船、メディアなど多様な手段を用いて、日本の抵抗力を弱め、日本政府の『尖閣諸島の領有権問題は存在しない』という主張を崩しつつある」という趣旨を述べている。

物理的な波状攻撃で、施政権奪取を狙う

ヨシハラ氏の分析で興味深い点は、「中国が海警や漁船、海軍、空軍を使って『同心円的な力による輪』を構成し、その輪縄を思うように締め上げたり、緩めたりできる」ということだ。

中国は、日本に対して不満がある時には輪縄を締め上げ、協力したい時は緩めたりして、日本にシグナルを発信している。

さまざまな組織を駆使することで、ある意味で、波状攻撃的に尖閣諸島を"包囲"し、日本に同諸島を手放させるように仕向けているといえる。

非物理的な手段で、施政権奪取を狙う

この他にもヨシハラ氏は、次のような特徴を紹介し、非物理な手段による「威圧態勢」にも言及している。

「中国政府は、公船を尖閣諸島に派遣するたびに、政府の公式ウェブサイトで発表し、自国のメディアが忠実に報道する」

「尖閣諸島の領有権についての広告を海外紙に出し、中国メディアも定期的にアナリストや学者、軍人OBを取り上げ、彼らに政府の意見を代弁させている」

中国は軍民一体となり、メディアなどの非物理的な手段も用いて、尖閣諸島の施政権奪取を画策している。

日本人の「現状維持意識」を巧みに利用

日本のマスコミは、中国の準軍事組織である海警などが、尖閣諸島の周辺海域などに進出していることを報じている。だが、中国の動きをバラバラに伝え、国民に全体観をもって伝えているとは言い難い。

今後も尖閣諸島への領海侵犯が日常化すれば、日本国民の関心はさらに低くなり、尖閣問題の優先順位を下げるだろう。中国の異常行為も"正常"ものとして受け入れ、現状を追認するかもしれない。中国は、"日本の現状維持意識"を巧みに利用しているといえる。

中国は、そうした威圧態勢を通じた「消耗戦」を仕掛け、日本の抵抗力を押し下げようとしている。その際、日本が反撃に出ないと見るや否や、尖閣諸島を一気に占領する可能性もある。

日本が警戒すべき問題は、尖閣諸島は中国領土であるという「既成事実化」だ。日本政府は、既成事実化を拒否する戦略をたてる必要があるだろう。

(山本慧)

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