2019年9月号記事

国際政治局

知日派のフランス政治家の視点

アメリカ外交は正義なのか

フランスの保守政界を代表する論客にヨーロッパの知識人からみた世界情勢を聞いた。

(取材・編集 藤井幹久・幸福の科学 国際政治局長)

欧州議会・元議員

ブルーノ・ゴルニッシュ

プロフィール

(Bruno Gollnisch)1950年生まれ。フランスの政治家、学者。1974年に京都大学に留学。国民戦線(現在、国民連合に改称)元全国代表。1989年より今年まで、欧州議会議員。2011年に、マリーヌ・ルペンと国民戦線の党首選を争う。

EUの「国会」に当たる欧州議会の選挙が、今年5月に行われ、EU懐疑派が勢力を伸ばした。背景には、ヨーロッパ各国における反EU政党の台頭がある。

フランスの国民連合(「国民戦線」から改称)も、その代表的な政党の一つだ。党首マリーヌ・ルペン氏は、2017年の大統領選の有力候補となった。

反EU政党台頭の背景

2018年3月に行われた「国民戦線」の党大会で演説する、マリーヌ・ルペン党首。ルペン氏の提案で、党名が「国民連合」へと変更された。写真:AP/ アフロ。

ゴルニッシュ氏は、こうした近年の動きを、グローバリズムに対抗する流れとみている。

「トランプ大統領の当選は、既得権益を守る政界の特権階級に対する勝利でした。アメリカ・ファーストで国民の利益を主張するのは当然です。フランスにも、国益を守らない政治家がたくさんいます。ですから、マリーヌ・ルペンは、『フランス・ファースト』の立場をとるのです」

ゴルニッシュ氏自身も30年間にわたって欧州議会の議員を務め、議員交流を行ってきた。

「日本の国会議員と会うと、『EUは素晴らしい。戦争を繰り返してきたフランスとドイツが兄弟国になった』と言います。そんなときに、私はこう答えます。

『では、"東アジア連合"をつくってみたらどうですか? 例えば、行政府は上海に置く。中央銀行はシンガポールに置く。円という通貨はなくなります。裁判所は共同で運営する。貿易による共通関税は、すべて東アジア連合政府の収入になります』と」

ゴルニッシュ氏の"提案"に、日本の議員は決まって「遠慮します」と答えるという。つまりEUは、各国が国家主権を失うことを前提にした体制なのだ。

アメリカ外交への視点

同氏は、アメリカ外交史に対しても、鋭い批判を投げかける。

「アメリカは、この100年あまり、何度も『国家のウソ』により、戦争を始めてきました。第一次世界大戦に参戦したきっかけは、ルシタニア号事件でした。ドイツの潜水艦がイギリスの『民間船』を攻撃したとされましたが、実際には、イギリス向けに武器弾薬が積まれていました。真珠湾攻撃の"だまし討ち"も、暗号を解読していました。当時の日本には、全面降伏か開戦かの選択しかないことを、ルーズベルトは知っていたのです。ベトナム戦争では、トンキン湾事件を起こしました。この事件をきっかけに、ジョンソン政権は米軍をベトナムに介入させていきました」

さらに現在の中東でも同じことが起きていると指摘する。

「イラク戦争の開戦理由は、フセインが大量破壊兵器を保有している、ということでした。しかしこれは"素晴らしい"ウソでした。戦争犯罪だといえます。

最近もペルシャ湾で、『イランが日本のタンカーを攻撃した』とされています。しかし、ヨーロッパの政治家として、私はこう言いたいです。『すみませんが、信じられません。検証が必要ですが、証拠がないです』と」

「極右」扱いへの反論

2007年には、ホロコーストについて「歴史家たちの検証の余地があってもよい」との発言をめぐり、刑事訴追された。

「5年間の裁判を経て、最高裁で無罪判決が出ました。私は、自由な言論をしただけです。ニュルンベルク裁判は、法律的に検証されたものではないからです。また、ホロコーストを『否定』したわけでもありません。

刑事訴追されたときには、新聞で大見出しの記事になりました。しかし、無罪判決の報道は、たった数行の記事だけでした」

こうした歴史問題が、フランス社会で大事件となるのはなぜか。

「フランスにはユダヤ人の利益を守る組織があり、イスラエルの利益にかなうロビー活動をしています。

かつてオバマ大統領は、イスラエルにパレスチナへの入植を中止するように求めましたが、ネタニヤフ首相はやめませんでした。それなのに米連邦議会はネタニヤフ首相を演説させ、20回以上ものスタンディング・オベーションで迎えました。アメリカでも、ユダヤ・ロビーは強力で、非常に影響力があるのです」

ゴルニッシュ氏は、国民戦線を創立したジャンマリ・ルペン氏と政治活動を共にしてきた。来日時には両氏で靖国神社に参拝している。国民連合が「極右」扱いされていることに次のように反論した。

「私たちは、言論による政治活動をしてきました。たとえ共産党が相手であっても、対話を尊重しています。しかし、政治制度もメディアも、私たちを不利に扱います。政界の既得権益を脅かしているからです」