2019年8月号記事
Expert Interview
米中貿易戦争の損失を
日本で補おうとする中国
トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争は、中国経済にどのような影響を与えているのか。
アメリカ在住の中国人エコノミストに話を聞いた。
(聞き手 長華子)
「08憲章」署名者
エコノミスト
夏業良
プロフィール
(か・ぎょうりょう/Xia Yeliang) 経済学者。復旦大学で博士号を取得。劉暁波氏らが起草した「08憲章」の草案作成者で署名者の一人。共産党独裁体制を批判したことで、北京大学を解雇され、アメリカに亡命。トランプ政権の中国政策アドバイザー。
──米中貿易戦争の行方をどう見ていますか?
夏氏(以下、夏): 米中貿易戦争ではアメリカが勝つと見ています。貿易戦争は中国経済に打撃を与え、信用不安や雇用の悪化をもたらしているからです。
中国はこれまでマンションや工場といった不動産への固定資産投資を行うことで、経済を牽引してきました。不動産建設が過剰に行われた結果、以前は1~2カ月で不動産を売り切っていたのに、一部の地域では売り切るのに3年間かかっています。
この状況は、バブルがはじける前の1991年当時の日本よりはるかに深刻です。「バブルがはじけるかもしれない」という懸念から、みんながドルを持ちたがるようになっています。結果として、人民元を売ってドルを買うという資本流出が起きています。
このため元は1ドル=6.9元から(6月14日現在)、2020年までに7.5元に下落する可能性があります。中央銀行の介入があると、為替操作国に指定される可能性が出てきます。
固定資産投資が行き詰まった上、貿易戦争で輸出を増やすことができない中国では、深刻な失業問題が起きています。中国は今年の全人代で経済成長率を下方修正し、6~6.5%としました。GDPが1%下がるごとに約700万人が職を失います。中国の失業率は4.5%と公表されていますが、実際の失業率は10%程度で3千万人が失業中だとも言われています。
失業者が増えると社会不安が高まるので、李克強首相は地方都市に「失業対策をするように」という指示を出しています。