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《本記事のポイント》

  • 中国色に染まった"台湾女子"
  • 中国に反旗翻す90年代生まれ
  • 台湾海峡両岸で自由をめぐるせめぎ合いは続く

台湾海峡両岸で、奇しくも同じ日に不思議な事件が起きた。

3月11日、北京で開かれた「政治協商会議」において、台湾出身の香港政協委員・凌友詩(57歳女性)が「世界に中国は1つしかなく、全中国の唯一の合法的代表政府は中華人民共和国政府である」と何度も繰り返し述べたのだ。そして、「両岸の統一を心待ちしている」と「中台統一」を唱えた。

一方、同11日、中国から台湾への留学生、李家宝(21歳男性)が、台湾国立清華大学で「私は反対する!」と題する講演を行い、SNSで動画を配信。そこでは、中国共産党による「反自由・反民主」の政治に、うんざりしていると述べた。普通の中国人は、台湾に対し「一国二制度を受け入れよ」と主張する。中国人留学生が台湾で習政権批判を行うのは、極めて珍しい。

凌友詩と李家宝とは、お互い立場が逆転している。

中国色に染まった"台湾女子"

凌友詩は、「自分は"平凡な台湾女子"だ」と強調する。しかし、実際はかなり「中国色」の強いキャリアを歩んでいるようだ。

凌友詩は、台湾の国民党軍人村(眷村)に生まれ育った。17歳の時、香港へ行き、修士と博士を取得した。その後、香港特別区政府で仕事をし、福建省政治協商香港マカオ華僑委員としての任務を担っている。2013年、中国共産党平和統一促進会香港総会常務理事となった。そして2018年、香港代表の政治協商委員になったのである。

なお凌友詩は現在、香港市民である上に、米国のグリーンカード(永住権)も持っているという。1番最後に「中華民国パスポート」で台湾へ入境したのは、2017年1月で、2月初旬には出国している。実際にどれほど「台湾愛」があるかは定かではなく、「台湾出身であることを、中国政府に利用されている」ようにも見えなくない。

なにせ、8割以上の台湾人が反対する「中台統一」への賛成を声高に叫んでいるのだ。

こうした「台湾出身の中国共産党メンバー」は、他にもいる。

2017年に開かれた、中国共産党第19回全国代表大会では、台湾高雄出身の盧麗安が「台湾代表」として出席した。盧は2022年まで中国共産党の「台湾代表」を務める予定だ。従って台湾島内で、凌友詩は「第2の盧麗安」とみなされている。

中国に反旗翻す90年代生まれ

次に、李家宝だが、既述の通り、中国大陸から台湾への留学生が、自国政権を真っ向批判した。こうしたケースが近年、ちらほら見られるようになっている。

記憶に新しいのが、2018年7月、29歳女性である董瑶琼が、上海で習主席のポスターに墨をかける様子を撮影・配信した事件だ。

また、同11月、23歳の張盼成と友人の祁怡元が、同じくネット動画で習近平専制政治に反対し、言論の自由を要求した。

90年代生まれの若者たちが、習近平政権に対し果敢に挑んだのである。

しかし、董瑶琼は精神病院へ送られた。張盼成と祁怡元も、まもなく失踪している。

今回動画を公開した李家宝も、もし中国大陸へ戻ったら、「国家政権転覆扇動罪」等の罪名で逮捕・起訴されるのはまず間違いない。帰国しなくても、故郷の両親や兄弟、親族はこれからどうなるのか。

また李家宝は、直接、北京から圧力が加わるだろう。早速、習近平政権は、李家宝に帰国命令を出した。おそらく、台湾でも、中国スパイが暗躍しているはずである。だから、李が台湾政府に対し、自分を保護して欲しいと懇願した。今後、台湾政府が、李家宝をどのように扱うかが注目されよう。

中国共産党の独裁体制が台湾を飲み込むか、足元からその独裁体制が崩れていくか。水面下の激しいせめぎ合いは続いている。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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