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《本記事のポイント》

  • 「貿易戦争」は率直に言って苦しい
  • 「財政・金融」で支えるも……どこまでできる!?
  • 「ゾンビ企業」「5G」「退役軍人」……当局の心配ごと

「中国経済大失速」のニュースが、世界を騒がせている。今後、さまざまなひずみが、一気に噴出してくることだろう。

中国政府が2019年の経済運営方針を打ち出した、昨年12月開催の「中央経済工作会議」の内容が、意外に率直な自己分析であり、しかも中国経済の「患部」に比較的バランスよく触れている。

中国経済の理解や頭の整理に役立つと思うので、一部をご紹介したい。

「貿易戦争」は率直に言って苦しい

第一に、同会議では冒頭、正直に"弱音"が語られている。

「今年、経済で結果を出すのは難しかった。同時に、経済運営が変化して不安定化し、外部環境は複雑で深刻であり、経済は下押し圧力に直面している」

「外部環境は、複雑で深刻」とは、もちろん「米中貿易戦争」のことを指す。「稼ぎ頭」である輸出を干されているのだから、大ダメージだ。

「下押し圧力」になっているのは、それだけではない。

中国共産党は「アフリカ豚コレラ」の蔓延に頭を悩ませている。何百万頭、何千万頭もの豚が殺処分され、一時、豚肉の値段が急騰。現在ではそれにつられて、羊肉と牛肉も高騰している。

こうした内憂外患により、景気が大きく落ち込もうとしている。

「財政・金融」で支えるも……どこまでできる!?

第二に、同会議では、その打開策として「マクロ政策は、積極的な財政政策と健全な金融政策を継続して実施する」と表明された。

しかし、その実現性の低さが、また、中国経済の危うさをあぶり出す。

前者の「積極的な財政政策」とは、「減税等による消費喚起」「輸出補助金(輸出還付金)で輸出を伸ばす」などを指すと思われる。しかし政府の借金は、地方政府と国有企業の負債を合わせれば、国内総生産(GDP)の300%以上もある。カネは国庫にほとんどない。

そこで北京は、輪転機で人民元を盛んに刷っている。これが後者の「金融政策」だ。その裏付けとして、中央銀行は米国債などの外貨準備高が豊富にあるように見せている。

しかし元はどんどん安くなる。「1ドル=7元」が、人々が元の先行きに不安を感じて、さらに元を手放す「心理的節目」と言われている。当局は、その水準を割らないよう、腐心している。しかしどこかで限界は来るだろう。

つまり、落ち込む景気を下支える余力が、当局にはあまりない。

「構造改革」を謳うも、やっていることは逆

第三に、同会議では、「サプライサイド構造改革は清算を加速するために過剰設備産業を促進する。より質の高い企業を育成する」としている。

大づかみに言えば、売れない鉄鋼などをつくっている工場はつぶし、稼ぐ力を失った企業には退出してもらう。代わりに、本当に競争力のある企業を増やしていく。

そのために習近平政権は元来、官から民へという"小さな政府"を目指す「サプライサイド経済(学)」を標榜してきた。

しかし実際の政策は国有企業を優先し、民間企業を圧迫している。"真逆のこと"をしているので、構造改革による経済成長など望めないだろう。

第四に、同会議では、2019年の重点政策として7項目が挙げられた。それらは抽象的なので、一部具体策を挙げてみよう。当局も自覚している焦りを、裏表で表している。

(1)「ゾンビ企業」の処理を速める

本来なら倒産すべきだが、銀行や政府機関の支援で生きながらえている「ゾンビ企業」が、中国には最低でも2000社存在すると言われている。

それらが中国経済の足を引っ張っている。

しかし、「ゾンビ企業」を倒産させることは決して容易なことではない。仮に1社当たり、5万人が勤めているとする。「ゾンビ企業」を全部倒産させたら、たちまち1億人が失業する。さらに、1人の労働者につき家族が3人いるとすれば、3億人が路頭に迷うことになる。

(2) 5G(第5世代移動通信システム)の商業ペースを加速する

ファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)が、中国の発展に欠かせないことが、改めて分かる。

翻って、米国の要請で、ファーウェイの孟晩舟副会長(CFO)がカナダで身柄を拘束されたり、同日、ファーウェイと関係が深い、天才物理学者、張首晟が自殺(他殺説も浮上)したりしたのが、北京にとっていかに痛手だったかも分かる。

(3) 大学卒業生、農民工、退役軍人や他のグループの雇用状況の解決に重点を置く

彼らの雇用状況を改善しなければ、北京政府にとって脅威となる。とりわけ、退役軍人の生活改善が急務だ。

習政権は新しい産業を興し、雇用を増やさねばならない。だが、実際、これは容易ではないだろう。経済的な苦境は、体制の不安定化にもつながってしまうのだ。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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